京都、兵庫、鳥取の3府県にまたがる「山陰海岸ジオパーク」が、正念場を迎えている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界ジオパーク」にふさわしいかを確認する再認定審査が、7月上旬に迫っているからだ。2010年の初認定以来、4年ごとの審査をクリアしてきたが、3回目の再認定審査(22年)では2年間の「条件付き再認定」とされた。ユネスコから指摘された課題の改善が認められなければ、「認定取り消し」にもなりかねい。山陰海岸ジオパークが背負う課題や認定の意義などを3回に分けて検証する。(阿部江利)
■岩石や化石の販売継続
別名は「イエローカード」-。ユネスコの条件付き再認定は、サッカー選手に退場処分の一歩手前を示す警告になぞらえて、こう称される。黄信号が灯る山陰海岸ジオパークは7月7~10日、ユネスコの再認定審査を受ける。課題が未解決と判断された場合、世界ジオパークからの退場を宣告される恐れもある。
再認定審査の大きな焦点は「玄武洞公園」(豊岡市赤石)そばの民間施設での岩石や化石などの販売だ。ジオパークの理念に反するとして問題視され、販売中止を求められている。山陰海岸ジオパーク推進協議会(事務局・但馬県民局内)は、地域内外の関連団体と連携しながら対応を進めるが、今も販売は続いている。
打開に向けた事業者との対話は、非公開で行われてきた。認定を左右する大事な問題にもかかわらず、住民からは、何が起こっているのか見えにくくなっている。審査まで2週間を切った今、対応はどこまで進んでいるのか。
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ユネスコの審査報告書は、民間事業者の具体名を明記し、同推進協に対応を求める。しかし、販売行為は国内法に触れておらず、現時点では取引を制約するような国際条約もない。事業者への配慮や保護のため、首長らの会議や、推進協が主催する事業者との対話は非公開で行われてきた。
対話の場で挙がった課題は、推進協と豊岡市、ジオパークの全国組織なども参加する有識者会議でも議論。事業者が販売中止に応じる場合、中止に伴う損失を補うため、岩石などに代わる商品の開発支援などの案も浮上している。推進協が再認定審査の際に提出するユネスコ向けのリポートには、25年度末までに販売商品の全てを別の商品に置き換える目標を明記した。
この事業者は取材に「私たちは世界ジオパークに認定される前から、50年近く同じ場所で商売を続けてきた。国内法にも触れていない」と強調する。「私たちも生きていくために事業を続けなければならない。岩石や化石は世界的に取引され、一介の事業者で対応できるものでもない」とし、「ジオパークが地域観光に意味があると考えるからこそ、できることは協力しようと協議にも応じているが、批判の声を受けるなどすでに不利益も被っている。苦しい立場も理解してほしい」と訴える。
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世界ジオパークの認定に伴い、3府県6市町ではそれぞれの住民たちが15年以上、地域に誇りを持ちながら、観光や地域づくりに取り組んできた。京都府京丹後市の中山泰市長は「世界ジオパークの認定は、大きな公益に関わる問題。関係者だけでなく、府県民のみんなに関わることのはずだ」と指摘する。再認定後を見据え、「問題をきちんと整理し、必要な配慮をした上で広く議論をして知恵を募っていく作業が欠かせないのではないか」と話す。