きょうは「国際女性デー」である。性別で差別されないジェンダー平等の社会を目指して、国連が1975年に定めた。
男性には関係ない、と思う人がいるかもしれない。しかし、「男のくせに」「女らしく」などという言葉が象徴するジェンダー観は、女性だけでなく男性にとっても窮屈だ。生き方を狭める枷(かせ)にもなる。
だから、一緒に考えたい。性別にまつわる世間の「常識」に知らず知らずに縛られていないか、家族や恋人など身近な異性を理解しようとしているか-。
向き合い方のヒントを探ろうと、ジェンダーの問題に取り組む教育現場を訪ねた。
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女性の生理、性的同意、デートDV(恋人間の暴力)。
男子校の私立灘高校(神戸市)では、文系の3年生の公民でこうしたテーマを取り上げる。2022年度からは外部の専門家講師に加え、近隣にある甲南女子大学の国際学部多文化コミュニケーション学科の学生が参加している。
例えば、生理。さまざまな生理用品を灘高生に手にとってもらい、実際にどのような体調になるか、どんな配慮があれば女性はうれしいか、などについて班ごとに大学生と意見を交わす。
多様な視点を知る
「生理痛には個人差があり、相手をよく知ることが大切だと思った」。生徒たちの感想だ。参加した大学4年生は「固定観念で決めつけるような反応が返ってくるのではと心配したが、私たちの意見を真剣に聞いて考えてくれた」と振り返る。
灘高の池田拓也教諭は「男子の進学校という同質性の高い環境だからこそ、多様な視点に触れてほしい。社会の半数を占める女性に目を向けることは特に重要」と話す。
自分とは異なる他者に共感する力が鍵となるのだろう。
甲南女子大側も高校生との学びに手応えを感じていたところに、思わぬ騒動が起きた。
昨年秋、灘高の授業がネットメディアで報じられると、女子大生と性的合意や生理の話なんて…などと揶揄(やゆ)するようなコメントがネットに多数投稿されたのだ。中高年とみられる男性にまじって「そんな授業を息子には受けさせたくない」と一方的に非難する女性もいた。
担当する高橋真央教授は身構えたが、女子学生たちは冷静だった。3年生の一人は「若い世代の意識は変化しているのに、女性蔑視的な価値観のままの大人が多いんだなと実感した」と語る。ネットの反応はゼミの教材に使った。政治をはじめ、意思決定の場に女性の声を反映させる必要性を再認識したという。
男性にも苦しみが
若い女性が都会へ出て行って戻らず、地方の人口減が進む-。多くの自治体が抱える悩みを、前豊岡市長の中貝宗治さんは「女性たちの静かな反乱」と表現する。
男性優位が色濃い地域では、女性は将来への夢や希望を描きにくい。家事や育児、介護の負担が女性に偏ったままではなおさらだ。ただそれは、日本社会全体にも当てはまる。男女間の格差は、加速する少子化の要因である。
一方、「男は稼いで当たり前」「長男が家を継ぐべき」といった価値観に苦しむ男性がいる点も見過ごせない。女性の生きづらさと表裏一体となっている。
灘高で公民を教える片田孫朝日(かただそんあさひ)教諭は、同校の男性教員で初めて育児休業を取った。多様な働き方を伝えたいと、幼い娘を抱いて授業をしたこともある。「私生活を大事にしたい男性は増えているが、生徒たちの父親を含め長時間労働が普通になっている。ジェンダー平等の実現は、男女が健康で自由に生きられる社会の基盤になる」と実感を込める。
いったん立ち止まり、自分の働き方を見つめ直す。日々の生活で大切にしたいことを話題にしてみる。まずは身近なところから一歩を踏み出す日としたい。