政府はコメの安定供給に関する関係閣僚会議を開き、石破茂首相が「農業者が増産に前向きに取り組める支援に転換する」と表明した。
消費者のコメ離れによる価格の下落を防ぐため、政府は1970年代以降、減反や転作奨励で生産量を抑え込んできた。半世紀ぶりの政策転換である。
耕作放棄地は増え続け、担い手の高齢化も進む一方だ。コメ政策の抜本的な立て直しは、これ以上先送りできない。食料安全保障の観点からも、主食の増産を後押しする方向性は妥当と言える。
だがコメ農家には、増産に伴う価格下落への懸念が根強い。政府は耕作放棄地の集約強化や、コスト削減に向けた大規模化、輸出拡大を促す方向だが、環境保全や集落維持に果たす役割を考えれば、多数を占める小規模農家や、山間部の農地への支援もおろそかにはできない。
政府は増産に関する政策を2027年度以降に実施する。既存の政策も大胆に見直し、安心してコメを作れる環境を築かねばならない。
今回の政策転換は、昨年来続くコメ価格の高騰が契機となった。
コメの生産量は減少の一途をたどり、24年産は15年前よりも2割近く少なかった。近年は高温障害でコメの品質が悪化し、売り物にならないコメも増えている。
一方、訪日客の消費拡大などにより需要量は3年連続で生産量を上回る。首相は生産量の不足が価格高騰の原因であることを認めた。
「コメは足りている」として農林水産省が生産不足を認めず、備蓄米放出などの判断が後手に回ったのを思い起こす。価格維持を意識するあまり、生産や流通現場の窮状が認識できていなかった。増産にかじを切っても気候変動の影響で想定通りに進まない可能性は否めず、需要と供給の実態を迅速に把握するための枠組みづくりも急がれる。
農業政策は7月の参院選でも争点の一つとなった。大半の野党が唱えたのが、農家への直接支払いの導入である。旧民主党政権が掲げた戸別所得補償制度は農家の規模を問わず対象としたため、「ばらまき」との批判を浴びた。
しかし市場価格と生産コストの開きを埋める施策は、作り手の不安を解消するために欠かせない。コスト削減の度合いを加味するなど制度設計を工夫して導入し、新規参入者の確保にもつなげたい。
日本の食料自給率は38%と先進国で最低の水準にとどまるが、コメに限ればほぼ全量を自給できている。国民生活の基盤となる主食を国内で賄える状態を持続させるのが、政治の責務である。