広島に続き長崎がきょう、米軍による原爆投下から80年の節目を迎える。平和祈念式典には95の国・地域の代表が参加する見通しだ。
「核なき世界」を切望する被爆者の思いとは裏腹に、日本を含め核抑止力への依存は強まり、核大国ロシアが軍事侵攻したウクライナ戦争も終息が見えない。今こそ全ての国に被爆の実相を伝え、「二度と繰り返さない」との誓いを新たにしたい。
長崎市は昨年、パレスチナ自治区ガザへの侵攻を続けるイスラエルを、抗議活動など警備上の懸念を理由に式典に招待しなかった。先進国などは「政治的だ」との批判を強め、米国やフランス、英国といった核兵器保有国が参加を見送った。
異例の事態を踏まえ、長崎市は今回、日本に大使館などを置く157の国・地域全てに招待状を送った。式典の「通知」にとどめた広島市より踏み込み、広島には不参加のロシアが出席意向を示した。国家承認していないため招待状を送らなかった台湾の参加申し入れも受け入れた。
核兵器は存在そのものが人道に反する「絶対悪」とされる。式典は「核のタブー」への共通認識を深める貴重な場である。参加国を広げる長崎市の取り組みは評価できる。
残念なのが、核保有国の中国が不参加を表明したことだ。理由は不明というが、主権を巡り対立する台湾の参加に反発したとの見方がある。恒久平和の思いを共有する機会がまた大国の思惑に振り回された。
今年は被爆者を巡る新たな動きもみられた。三つの被爆者団体が共同声明を出し、核兵器の非人道性を訴えた。1960年代に分裂した原水爆禁止日本協議会(原水協)と原水爆禁止日本国民会議(原水禁)が手を携えたのは強い危機感の表れだ。
被爆者は次々と鬼籍に入り、被爆者健康手帳を持つ人は初めて10万人を下回った。生存者の平均年齢は86・13歳に達する。政府は、被爆者の状況を把握するために65年から10年おきに実施してきた実態調査を今年は実施せず、実質的に終了した。被爆者の負担軽減が理由という。
一方で、体験を記録し教訓を残そうと、政府は全ての被爆者を対象に毎年体験記を募る方針を決めた。被爆地の生の声を各国にも届け、人類共通の財産として核兵器廃絶への原動力とする意義は極めて大きい。
未認定患者の救済も待ったなしだ。長崎では国の援護区域外で原爆に遭った「被爆体験者」が自治体を訴えた訴訟が進行中で、放射能の影響が否定できなければ被爆者と認定する広島とは格差がある。国は幅広い救済策を検討するべきだ。
石破茂首相には司法判断を待たず、政治解決を決断してもらいたい。