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 地域ならではの農林水産物や食品ブランドを守る地理的表示(GI)保護制度が始まって、今年で丸10年となった。兵庫県内では「但馬牛」「神戸ビーフ」「佐用もち大豆」「淡路島3年とらふぐ」「揖保乃糸」が登録され、国内外での競争力強化やブランド保護で恩恵を受けてきた。一方で、日本の農産物や食品の海外での模倣品や産地偽装による経済損失は膨らむ一方で、知的財産保護の強化が求められている。

 GI制度は、2015年6月に地理的表示法(GI法)が施行され、同年12月に「神戸ビーフ」「夕張メロン」など7品目が登録された。現在、全国で164産品が登録され、専用のGIマークを使える。類似品などの不正表示を行政が取り締まり、表示排除などの命令に従わなければ罰則も科す。酒類のGI制度もあり、兵庫では「灘五郷」と「はりま」が指定された。

 登録産品の多くは、国家間の相互協定によって海外でもブランドが保護される。ヨーロッパで他国産牛肉が「神戸ビーフ」と不正表示される事例が後を絶たない中、日欧経済連携協定(EPA)に基づきEUで相互保護される意義は大きい。

 19年に登録された「佐用もち大豆」は生産増の機運が高まり、出荷拡大やPR強化が続く。今年4月には町内の農産物直売所で新たな加工所が稼働した。

 一方で、制度開始から10年が過ぎても認知度は高いとは言えない。農林水産政策研究所が21年に行った消費者調査では、制度を「聞いたこともあり、内容もおよそ知っていた」と答えたのは5・1%にとどまった。GIマークを「見たことがある」と答えた人も14・9%だった。

 農産品を巡る国際的な知的財産保護の問題は深刻だ。和牛やシャインマスカットなど日本の農産物・食品の海外での模倣品や産地偽装による経済損失は年間1千億円と推定される。

 地域ブランドを守るにはGI制度を積極的に活用するだけでなく、特許、商標、育成者権といった複数の知的財産との戦略的な組み合わせが不可欠だ。

 知財の専門家と生産者の連携を官民で深めると共に、政府は不正表示などの監視の実効性をさらに高める必要がある。