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 自民党は高市早苗首相の指示を受け、安全保障関連3文書の改定に着手した。非核三原則の見直しも主要な論点となる見通しだ。

 非核三原則は、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」とする核政策の基本で、唯一の戦争被爆国として戦後日本が堅持してきた国是である。1967年に当時の佐藤栄作首相が国会で表明し、71年には沖縄返還に向けて国会決議が採択された。その後の国会も決議を重ね、歴代首相が順守を表明してきた。時の首相の一存や与党の議論だけで軽々に覆していいものではない。

 現行の安保3文書のうち国家安保戦略は「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と明記する。2025年版の防衛白書も「国是として堅持」と記述した。

 改定に当たりこの表現を維持するかと国会で問われた首相は「堅持する」とは明言しなかった。中でも「持ち込ませず」については以前から、有事の際に核搭載艦艇が日本に寄港できないなど米国の核抑止力が弱まる懸念があり現実的ではない、と主張していた。

 持論を押し通して見直しを強行すれば、中国、北朝鮮に核増強の口実を与えかねない。日本の安保環境は改善するどころか悪化するばかりだ。「核兵器のない世界」の実現に逆行するとして、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会や被爆地の首長らが強く反発するのは当然である。

 日本は米国の「核の傘」に守られており、非核三原則はその現実と矛盾していると指摘される。日本への核持ち込みを黙認する日米間の「密約」も明らかになっている。

 だからこそ、核廃絶という理想に現実を少しでも近づけようとする日本の意思を国内外に示す三原則の意義は大きい。放棄すれば「日本が核を肯定した」とみなされ、国際社会の信頼を損なうのは間違いない。外国艦船が神戸港に入る際に非核証明書の提出を求める神戸市の「非核神戸方式」も影響を免れないだろう。

 2010年には当時民主党政権の岡田克也外相が「核の一時的寄港を認めないと日本の安全が守れない事態が発生したとすれば、時の政権が命運を懸けて決断し、国民に説明する」と国会で答弁した。高市政権もこれを引き継ぐという。有事では核の持ち込みを例外的に認めると解釈できるため、あえて見直す必要はないとの意見が自民党内にもある。

 真の国益と国民の安全を考えれば持論にこだわった拙速な政策転換は許されない。高市氏は平和国家のトップとなった今、「核なき世界」への誓いを込めた国是の重みを十分かみしめるべきだ。