神戸・北区5人殺傷事件
神戸市北区で2017年7月、男女5人が殺傷された事件は16日で発生から1年を迎える。5人に対する殺人・殺人未遂罪などで起訴された無職の男(27)=同市北区=について、神戸地検は2度の鑑定留置を経て刑事責任能力を問えると判断した。男のこれまでの発言には「お告げ」など意味不明な内容もあり、直接の動機は語られないままだ。(杉山雅崇)
神戸地検は17年9月~18年5月の8カ月間、鑑定医による聞き取りや検査を行う鑑定留置を実施。結果を受けて5月12日、殺人や殺人未遂罪などで起訴した。
事件当日の朝に自宅近くの神社付近で取り押さえられ、「神社に行けばアイドルに会えるというお告げがあった」「誰でもいいから刺してやろうと包丁を持っていた」などと話したとされる男。弁護側が心神耗弱などによる減刑を主張する可能性がある中、地検は責任能力をより慎重に見極めるため再鑑定を実施したとみられる。
捜査関係者は「経済やスポーツの知識もあり、思考力は正常。お告げは言い訳として考えた“作り話”としか考えられない」と断じる。祖父に馬乗りして何度も刃物で刺すなど殺意は明らかとみている。
一方で、動機は謎の部分が多い。男は逮捕後、職場や学校での不満や劣等感を口にしたというが、捜査関係者は「5人殺傷につながるほどなのか」と首をかしげる。
パソコンやスマートフォンにも事件を予兆させる書き込みなどはなく、前日までの生活状況から計画性は薄いという。
鑑定留置が行われる事件は全国で増えている。相模原市で16年7月に起きた障害者19人刺殺事件では、横浜地裁が被告の元職員を再鑑定した。神奈川県座間市のアパートで17年10月に9人の切断遺体が見つかった事件でも東京地検が被告の無職男を鑑定している。
最高裁によると、16年に鑑定留置の対象となった被疑者は509人で、裁判員裁判制度が始まった09年の353人から1・4倍に増えた。
甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「動機が不可解で捜査機関が専門家の知見を求める事件は増えている。今回の事件も責任能力の有無や程度が最大の争点になる」と指摘。「裁判員裁判に向けて竹島被告の“心の闇”と凶行との因果関係を明らかにする必要がある」と話す。
【神戸・北区5人殺傷事件】2017年7月16日朝、神戸市北区の民家などで男女5人が相次いで襲われ、男性=当時(83)=と妻=同(83)、近所の女性=同(79)=の3人が包丁で刺されるなどして死亡、女性2人が負傷した。兵庫県警は現場近くで包丁を持っていたとして銃刀法違反容疑で、男性と同居する孫の男(27)を現行犯逮捕。5人に対する殺人・殺人未遂容疑で再逮捕した。
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