神戸・北区5人殺傷事件
神戸市北区で2017年、祖父母ら男女5人を殺傷したとして殺人や殺人未遂などの罪に問われ、無期懲役を求刑された男性被告(30)の裁判員裁判の判決公判が4日、神戸地裁であった。飯島健太郎裁判長は「統合失調症の影響で心神喪失状態だったとの合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡した。複数人が殺害された事件で被告の刑事責任能力が否定され、無罪となる異例の展開となった。
刑法39条は、心神喪失者は罰しないと規定。被告は5人を殺傷したとする起訴内容は認め、検察、弁護側とも事件当時に統合失調症を発症していた点に争いはなかった。弁護側は心神喪失状態による無罪を主張し、検察側は善悪の判断や行動を制御する能力は残る心神耗弱状態だったとして無期懲役を求刑していた。
飯島裁判長は「内容をよく聞いてもらう」として主文の言い渡しを後回しにし、先に判決の理由を述べた。神戸地検による2回の鑑定留置で、疾患の影響を巡り精神鑑定をした医師2人の見解が割れていたが、飯島裁判長は「影響が圧倒的」とする1回目の鑑定を評価。検察側の主張に沿う2回目の鑑定は、被告との面接が1回5分程度で不十分とした。
その上で被告は事件で、被害者ら周囲の人が「人間ではない」との妄想を抱いていたと指摘。争点となった刑事責任能力の有無について「妄想などの精神症状の圧倒的影響下で行為に及んだ疑いを払拭できない」「心神耗弱状態に間違いがないとは認められない」などと述べ、検察側の主張を退けた。
被告は17年7月16日早朝、祖父母=いずれも当時(83)=と近くに住む女性=当時(79)=を包丁で突き刺すなどして殺害。母親(57)を金属バットなどを使って負傷させ、近所の女性(69)を包丁で刺してけがをさせたとして起訴された。
判決を受け、神戸地検の山下裕之次席検事は「上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とコメントした。
◇
【心神喪失と心神耗弱】 心神喪失は精神障害などの影響で善悪を判断できないか、やってはいけない行為を抑えられない状態。刑法では刑事責任能力がないとして罰しないと規定されている。心神耗弱は善悪の判断能力などが著しく減退した状態で、責任能力は限定的として刑が減軽される。被告の刑事責任能力は、裁判所が精神鑑定などを参考に(1)動機は理解できるか(2)違法性の認識はあったか(3)犯行に一貫性があるか-などを検討して総合的に判断する。
2021/11/4「遺族は納得できないと思うが…」 5人殺傷、裁判員が苦渋にじませ「法律では無罪になる」2021/11/5
「お母さん返して」「こんなこと許されるのか」立ち尽くす遺族 5人殺傷、無罪判決に騒然2021/11/4
神戸5人殺傷 男性に無罪判決「心神喪失状態だったとの疑い残る」2021/11/4
神戸5人殺傷、4日に地裁判決 刑事責任能力の有無争点2021/11/3
無期懲役を求刑 神戸北区5人殺傷で検察「心神耗弱のため」死刑選ばず2021/10/25
神戸北区5人殺傷 「心神喪失状態だった」無罪主張 神戸地裁で初公判2021/10/13
動機語らず、見えぬ心の闇 神戸5人殺傷事件1年2018/7/16
神戸・北区5人殺傷 容疑者の男を再び鑑定留置2018/1/29
神戸・北区5人殺傷 逮捕の男の鑑定留置、期間を延長 地検2017/12/7
神戸・北区5人殺傷 男を鑑定留置 地検2017/9/1
神戸5人殺傷 男を鑑定留置へ 地検2017/8/28
神戸5人殺傷で容疑者再逮捕 捜査本部会見詳報2017/8/27
神戸5人殺傷 男を再逮捕 近隣2女性殺傷容疑で2017/8/27
神戸5人殺傷事件1カ月 物証少なく動機絞れず 兵庫県警2017/8/16
神戸5人殺傷 祖母殺害などで再逮捕、容疑認める2017/8/7
神戸5人殺傷で再逮捕 捜査本部の一問一答2017/8/7
県内殺人事件の6割が親族間 神戸5人殺傷2週間2017/7/30
中退、退職…挫折重ね不満蓄積か 5人殺傷1週間2017/7/23
神戸5人殺傷 逮捕の男、神社に「お告げあった」2017/7/23
馬乗りで祖父襲撃、傷10カ所超 神戸5人殺傷2017/7/19
神戸5人殺傷 男を送検 祖父殺害容疑2017/7/19
神戸5人殺傷、緊迫の現場 無表情で刃物とバット2017/7/18
祖父殺害容疑で孫を再逮捕 神戸・北区5人殺傷2017/7/18
神戸殺傷 県警会見の一問一答「落ち着いている」2017/7/17