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神戸・北区5人殺傷事件

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判決理由を聞く男性被告(手前左)(イラスト・田村角)
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判決理由を聞く男性被告(手前左)(イラスト・田村角)
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無罪判決を受けて神戸地裁前に集まった報道陣=4日午後、神戸市中央区橘通2(撮影・秋山亮太)
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無罪判決を受けて神戸地裁前に集まった報道陣=4日午後、神戸市中央区橘通2(撮影・秋山亮太)
北区で男女5人が殺傷された事件の判決が言い渡され、神戸地裁前には多くの報道陣が詰めかけた=4日午後、神戸市中央区橘通2(撮影・坂井萌香)
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北区で男女5人が殺傷された事件の判決が言い渡され、神戸地裁前には多くの報道陣が詰めかけた=4日午後、神戸市中央区橘通2(撮影・坂井萌香)

 責任能力はあったのか、なかったのか-。4日にあった神戸5人殺傷事件の判決。男性の被告(30)の事件当時の精神状態を巡って専門医の見解が分かれる中、神戸地裁は無罪を言い渡した。閉廷後、ショックでぼう然とする遺族関係者ら。一方、無期懲役と無罪の間で「究極の選択」を迫られた裁判員。刑法の専門家は「負担は相当だったはず。裁判員裁判という制度の見直し議論も必要」と指摘した。

 「被告人をいずれも無罪とする」。神戸地裁101号法廷。約40分の判決文朗読の後、後回しにされていた主文が言い渡された。

 男性の被告はこれまでの公判同様、身じろぎ一つせず前を向いていた。

 「無罪ですが、行ったことは取り返しがつかないことは分かっていますね」。裁判長の問いかけに、小さくうなずいた。

 落ち着いた様子は、被告が事件時に抱いていたとされる妄想の荒唐無稽さとは対照的だった。判決によると、被告は事件2日前から元同級生の女性の幻聴が聞こえ始め、妄想により女性を「超常的な存在」と思うようになったという。

 周りの人は人間の形をした「自我や意識のない存在」で、倒すのが女性と結婚するための試練だと考えていた、とこれまでの公判で証言していた。

 閉廷が告げられると、傍聴していた被害者関係者らは困惑の表情を浮かべた。被告の伯父(67)は、3人の位牌を手に傍聴していた。殺害された祖父母と、その長女で公判前に亡くなった妻だ。

 発生から4年余りがたっての無罪判決に「本当にむごい。3人にどう報告すればいいのか分からない」と立ち尽くした。

 徐々に地裁内は騒然とし始めた。「お母さん返してよ!」「人が3人死んでんねんで!」。被害者の関係者とみられる女性は、地裁庁舎内で叫んだ。「こんな判決おかしいやんか。遺族の気持ちはどうなるの!」

 4日夕、亡くなった女性=当時(79)=の遺族は「何の罪もない3人が無法に命を奪われたのに、被告は法律で守られたことは到底納得できない」とのコメントを発表した。

 負傷した女性(69)も「こんなことが許されるのかと落胆している。4年間かけてようやく取り戻しつつあった安心が一気に崩れ去りました」とし、神戸地検に控訴を求めた。

    ◇

【園田寿・甲南大名誉教授(刑法)の話】 複数人が殺害された事件でも、刑事責任能力が争点になって無罪になるケースはある。刑事責任能力の有無を判断するには非常に専門的な知識が求められ、特に裁判員は、専門家の意見を信用せざるを得ない。精神鑑定の手続きなどに問題ないかで判断することになる。

 今回は精神鑑定を担当した専門医2人の見解が分かれた。11回にわたって面接した1回目と、5分程度あいさつを交わしたのみという2回目を比べると、1回目を信用するのは自然な判断だ。「疑わしきは被告の利益に」の原則に沿った判決だ。ただ、それでも無期懲役か無罪かの判断を迫られた裁判員は、相当な負担を感じたはず。

 裁判員制度の趣旨は、裁判の進め方や内容に国民の視点を反映することだが、「究極の選択」を一般人に強いるのは問題だ。制度導入前には、懲役10年以下の犯罪などを対象とするという議論もあったはずで、制度を考え直す議論も必要ではないか。

2021/11/4
 

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