TBS系ドラマ「VIVANT」でブレイクし、現在公開中の映画「8番出口」では歩き続ける謎のおじさん役で話題の河内大和。カンヌ国際映画祭では「CGでは?」とも言われたという。
さて、この名前正しく読めるだろうか。
「河内」という名字は、大きく「かわうち」「かわち」「こうち」の3つに分かれる。通常こういう場合は、どれか1つが本来の読み方で最も多く、残りは変化したもので数も少ないというケースが多いのだが、「河内」は3つの読み方がいずれも多い。しかもその読み方の違いは、地域によって異なっているというだけではなく、由来の異なるものもある。
「河内」のルーツとして最も多いのは、「川(河)の内側」というもの。
現在の大阪府の一部である「河内国」は、多くの支流があった淀川の「川の内の方」に因むという。
また、高知市の「高知」という地名は、山内氏が入国した際に、城のあった大高坂城が江ノ口川と鏡川に挟まれた地形から「河中(こうち)山」と名付けたのが由来。その後洪水が相次いだことから、佳字である「高智」に変え、やがて「高知」となった。
つまり、当時は川に挟まれた場所を「かわち」「こうち」と言った。この「かわち」や「こうち」に漢字があてられたのが「河内」である。
ただし、「かわち」と読む「河内」には別の由来もある。
江戸時代、商家は取引先や出身地に因んで「~屋」という屋号を名乗ることが多かった。河内国出身者や、河内国の商品を取り扱っている店が「河内屋」である。従って、「河内屋」は河内国以外にある。
こうした屋号を名乗っている商家では、明治になって戸籍に名字を登録する際に、「屋」を外して登録する家も多かった。つまり、「河内」という名字には、もともとは「河内屋」という屋号の商家であった家も多い。この場合は「かわち」と読む。
さらに、広島県では新しく開発した川沿いの新田を「こうち」といい、これに「河内」という漢字を当てた。この地域の「河内(こうち)」は、こうした新田に因んでいることがある。
しかし、こうした「かわち」や「こうち」はやや読みづらい。そこで、「河(かわ)」「内(うち)」という漢字本来の読み方に従って、「かわうち」という読み方が増えていった。
その結果、「河内」は「かわうち」「かわち」「こうち」がいずれも多く、地域によって多い読み方が違っている。
全国を合計すると「かわうち」が最多で、「こうち」と読むのは、山陽地方や愛媛県に多い。なかでも山口県では9割以上が「こうち」と読んで、圧倒的に多い。河内大和も山口県の出身で、「こうち・やまと」と読む。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら研究を続ける。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえっ!」のコメンテーターを務めた。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。