石破茂首相がきのう夕、記者会見を開き退陣を表明した。参院選大敗後も「政治空白をつくるべきではない」と続投の意欲を示してきたが、自民党内で事実上のリコールとなる総裁選前倒し要求が勢いを増し、政権が立ちゆかないと判断した。次の総裁選には立候補しない。
石破氏は記者会見で「選挙結果への責任は私にある」と認め、「米国との関税交渉に道筋がついたタイミングで後進に譲る」と辞任の理由を述べた。総裁選の前倒しを巡り「党の分断は本意ではない」とし、自らの辞任を「解党的出直しの一歩としてほしい」とも語った。
だが、トップをすげ替えても政権運営の厳しさは変わらない。衆参両院で少数与党の現状では野党の協力なしには予算も法案も通らず、新総裁が首相に選ばれるとも限らない。参院選から50日たつが、政策を前に進めるための新たな政党間協力の枠組みも定まらないままだ。
総裁選を、党再生の具体策と政治の安定に向けた展望を国民に示す場としなければならない。
8日に公表予定だった総裁選前倒しの意向確認で、国会議員と都道府県連を合わせ実施に必要な過半数に達するとの見方が出ていた。小泉進次郎農相らは「自発的退陣」を進言し、首相は退路を断たれた。
石破政権は昨年10月の発足後、物価高やコメ高騰、トランプ米政権による追加関税といった国民生活と経済を直撃する課題に直面してきた。トランプ関税を軟着陸させ、備蓄米放出とコメ増産方針への転換に踏み切るなど一定の成果は認められる。
しかし、参院選で争点となった物価高対策としての給付金と減税の是非を巡る議論や、自民派閥裏金問題の解明や企業・団体献金の見直しは進んでいない。看板政策とした防災庁創設や地方創生も道半ばである。
高額療養費制度や現金給付案などの重要政策で迷走し、戦後80年談話の閣議決定や、日米地位協定の見直しといった「石破カラー」は形にならないままだった。
首相としての指導力不足は否めない。ただ、党派を超えた「熟議の国会」を目指し、「困っている方々に手を差し伸べたい」と願った石破氏の政治姿勢は、新総裁が誰になろうとも引き継がれるべきだ。
党内の「石破降ろし」に対し、内閣支持率が上昇するなど世論との隔たりも顕著だった。支持離れの根源にある裏金問題への反省もなく、権力闘争に明け暮れる議員らへの嫌悪感であり、そうした勢力が実権を握ることへの警戒感でもあろう。
自民党が古い体質を刷新しない限り「いばらの道」は続く。新総裁選びに際し肝に銘じてもらいたい。