「もう助からないかもしれない」-。獣医にそう告げられた子猫のパンちゃんが、家族の愛情とSNSのつながりによって生きる力を取り戻しています。
■野犬に襲われ、絶望的な状態で発見
8月8日、3人の子どもと外食に出かけた帰り道、パンちゃんママさん(@panchan08.08)は道路脇で異様な光景を目にしました。野犬5頭に取り囲まれていたのは、生後間もない子猫。下半身が動かず、グルグルと回る姿はまさに瀕死の状態でした。
「そのまま置いていけば、また野犬の餌になってしまう。子どもたちの目の前で見捨てることはできなかった」
そう語るパンちゃんママさんは迷った末、家へ連れ帰り、翌日病院に駆け込みました。診断は背骨骨折、下半身不随、腹膜ヘルニア。獣医からは「1日、2日の命でしょう」と宣告されました。
■家族での「看取り」を覚悟
絶望的な状況に、パンちゃんママさんの家族は「せめて最期は人の温もりの中で」と覚悟を決めました。次男くんは「死んでしまうの?」と繰り返し問いかけ、長女さんは涙をこらえながら寄り添い、長男くんも帰宅するなり獣医がパンちゃんのことを「何と言っていたか」などを尋ねました。
「犬が悪いんじゃない。犬もお腹を減らして生きていくために必死なんだ」
パンちゃんママさんは子どもたちに「犬が悪いのではない」と伝えました。野犬は空腹をしのぐために必死に生きており、そこに罪はない。むしろ、野犬や野良猫が増えてしまう背景には、人間社会の問題があると考えています。
高齢者による多頭飼育崩壊や、避妊・去勢の不徹底、地域での管理不足-そうした課題が重なった結果、行き場のない動物たちが生まれ、野犬化・野良化してしまう。保護団体は限られた資金と人手の中で活動していますが、追いつかない現実があります。
「だからこそ、野犬を責めるのではなく、人間社会がどう動物と共生していくのか、その在り方を考える必要がある」
そう子どもたちに伝えたことは、命の責任を“人間側”にあると気づかせる大切な機会になりました。
■奇跡の「ゴロゴロ」
そして、看取りを覚悟した夜。抱きかかえていたパンちゃんが突然「ゴロゴロ」と喉を鳴らしたのです。
「ありがとう、と言っているように思えて号泣しました」
その後も少しずつ食欲を取り戻し、チュールを口にできるまでに。家族は寝ずの看病を続け、奇跡を信じました。
■SNSで広がった支援の輪
パンちゃんママさんは「お金も時間も限界。でもせめてできることを」とInstagramでアカウントを立ち上げ、パンちゃんの様子を発信。思わぬ反響を呼び、多くの応援コメントや支援が寄せられました。
「自然の摂理に反している、人間のエゴだという声もありました。でも、たくさんの方に応援してもらい、もう前を向くしかないと思いました」
■今後に向けて
下半身不随のパンちゃんは、容態としては楽観できない状況です。腹膜ヘルニアの手術が可能かどうかも、まだ確定していません。今後の治療を進めるためには高額な医療費が必要となるため、募金を始めてはいるものの、まだ十分ではないとか。パンちゃんママさんは必要に応じて再度募金をお願いするかもしれないといいます。
「いつ何が起きるかわからない。でも一生懸命、楽しく生きてほしい。そのために全力を尽くしたい」
パンちゃんの姿は、野良猫や野犬の問題をどう社会が向き合うべきかを問いかけています。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)