経鼻チューブで栄養を補給
経鼻チューブで栄養を補給

腎臓病は、猫が発症しやすい病気だ。現に、15歳以上の猫は約30%が腎臓病であるといわれている。もし、大切な愛猫が腎臓病だと診断されたら、飼い主はどんなサポートができるのだろうか。

そんな難しい問いを解決するヒントを授けてくれるのが、fuku_taishiさんの体験談だ。飼い主さんは愛猫フクちゃんの慢性腎不全と1年間向き合い、二人三脚で闘病に励んだ。

■飼い主の引っ越しで置き去りにされた“親子猫“が気になって…

フクちゃんは母猫サチちゃんと共に、引っ越しの際に置き去りにされた子だった。2006年、飼い主さんは近所の人から話を聞き、2匹の存在を知る。

当時はまだ、TNR(※野良猫を捕獲し、不妊・去勢手術を行った後に元の場所に戻す活動)が浸透していない時代。親子は近所の人からご飯を貰い、生き延びていた。

飼い主さんはペット不可の賃貸マンションで暮らしていたが、母娘共に避妊手術がなされていないフクちゃんたちを気にかけるようになったという。

そこで、犬1匹、猫2匹がいる実家にダメもとで相談するも、想像通り、断られてしまった。

「今だったらTNRを考えたでしょうが、当時は飼うか飼わないかの二択しか思いつきませんでした」

だが、後日、実家から電話が。たまに実家へ来るお兄さんが事情を聞き、2匹を保護して里親を探すと言ってくれたのだ。

■1年間見守った親子猫との別れが辛くて“お迎え”を決意

早速、飼い主さんはフクちゃんたちにご飯をあげている近所の人に相談し、保護を決行。1年間、見守ってきた2匹を無事、お兄さんに手渡すことができた。

だが、毎日、顔を見ていたため、会えない日々が辛くなり、2匹を自宅に迎えたいと思うように。そこで、不動産屋で許可を取り、大家さん宅へ。大家さんは敷金が返せないことを条件に、猫との暮らしを快諾してくれた。

フクちゃんは臆病な性格で、お迎え当初はよくタンスと壁の間に入り込んでいたそう。動物病院へは、サチちゃんが一緒でないと行けなかった。

「メス猫同士って折り合いが悪いことも多いけれど、2匹はとにかく仲良しでした」

2年後、飼い主さんは賃貸マンションを引き払い、2匹と共に、建て替えた実家へ引越し。窓から外を眺めるのが好きなフクちゃんは窓の多い家で、より外の観察や日向ぼっこを楽しむようになった。

■愛猫の腎臓病が発覚!「経鼻チューブ」での強制給餌が命を繋いだ

フクちゃんの腎臓病が発覚したのは、2021年9月のこと。きっかけは、水飲み場にしていたベンチに登れない姿に気づいたことだった。

「フクちゃんは3歳くらいの時に突然、腰が立たなくなったことがありました。その時はステロイドの服用で治ったので、同じ症状なのかなと思っていましたが、検査で腎臓の数値がかなり悪いことが分かって…」

フクちゃんは療法食を食べ、自宅で2日に1回ほど点滴を受けるように。しかし、どんどん食欲が低下。ついには自力で食べられなくなり、経鼻チューブを装着。チューブから強制給餌することになった。

実は飼い主さん、強制給餌には抵抗があったという。もともと、本人が嫌がる治療は無理にしたくないという想いがあったからだ。

だが、フクちゃんが「肝リピドーシス」になりかけていることを知り、経鼻チューブの強制給餌を選択した。肝リピドーシスとは、食欲不振によって肝臓に脂肪が過剰に蓄積することで起きる、肝機能障害だ。

「エリザベスカラーが常時、必要になったのは可哀想でしたが、経鼻カテーテルでの強制給餌は口をこじ開ける強制給餌より、"強制感“が少ないように感じました」

市販の流動食は高いため、飼い主さんは栄養に関する知識を得た上で、試行錯誤しながら流動食を作り、冷凍保存するように。フクちゃんは強制給餌によって栄養が摂れ、快方へ向かっていった。

■2度目の経鼻チューブ装着…

やがて、フクちゃんは経鼻チューブがなくても生活ができるように。元の日常が戻ってきたようで嬉しかった。

だが、2022年7月下旬、暑さによる食欲低下から体重が減少。またもや、肝リピドーシスの恐れがあったため、経鼻チューブを再装着。3~4時間置きに強制給餌を行うようになった。

「毎日のタイムスケジュールはフクちゃんの介護を軸に決まる感じでしたが、ちょうどコロナ禍でリモートワークとなったので、一日の大半を一緒に過ごせました」

治療費は、どれだけかかってもいい。こんなにかわいい子のお世話ができるなんて嬉しい。闘病中、飼い主さんはそう思っていたが、自覚のないところでメンタルは削られていた。

「フクちゃんがトイレに入ったことに気づいたら飛び起きて、おしっこがトイレの外に漏れないよう、介助する生活は相当なストレスだったようで、円形脱毛症になりました」

だが、少しでも長生きしてほしいという願いは本心。片時も離れたくなくて、リモートワークは、フクちゃんを膝に乗せながらこなした。

就寝前には「フクちゃん、長生きしてね、ママに頼まれてるから、簡単に逝かせるわけにはいかないんよ。また、いっぱい太って20歳まで生きてね。もっとでもいいよ」と声かけするのが日課に。

乳がんの転移から肺がんになって逝去した母猫サチちゃんの分まで、生きてほしいと願った。

■16歳で旅立った愛猫が教えてくれた「腎臓病」との向き合い方

しかし、別れはあまりにも突然だった。2022年10月8日、フクちゃんは胸水が溜まり、呼吸困難に。夜間病院へ駆け込み、治療をしてもらったが、2日後の朝、飼い主さんと一緒に寝ている時に息を引き取った。

「横にいる私が全く気づかないほど穏やかに旅立てたことが、唯一の救いでした」

そう話す飼い主さんは闘病生活を通して、猫の腎臓病と向き合うには腎臓病に詳しい獣医師と出会うことが大切だと感じたという。

「動物病院は、専門的な治療を受けられるような連携体制があまり取られていません。腎臓の数値が悪いと、他の要因がないのかを調べず、全ての体調不良を腎臓のせいだと考える獣医師もいるので、私は獣医師が院生時代にどのような研究をしていたか調べました」

また、飼い主さんは、SNSなどを活用して飼い主側が猫の病気に関する知識を積極的に得ることも大切だと考えている。

「慢性腎不全と急性腎不全を混同している方も多い印象を受けるので、まずはしっかり知識を得て、精密な検査が必要なのか、セカンドオピニオンが必要なのかなど判断してほしいです」

今は、仲良しだった母猫と同じ骨壺で眠っているというフクちゃん。彼女の生き様や二人三脚での闘病生活に触れると、愛猫が腎臓病と診断された時の向き合い方をシミュレーションしたくなる。

闘病記録をリアルに記した飼い主さんのブログも参考にしつつ、腎臓病を必要以上に恐れなくてもいい体制を、愛猫が元気なうちから整えていきたい。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)