連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)、今週は第2週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」を放送中。松野家の面々は貧窮から立ち上がろうと、トキ(髙石あかり)の婿探しに奔走している。一度目の見合いでは「いつまでも武士を引きずっている家に婿入りはさせられない」と断られてしまったトキと松野家。10月9日に放送された第9回では、親戚の傳(堤真一)とタエ(北川景子)が、婿をもらうのではなく嫁入りの方向で考えてはどうかとトキに提案する。しかしトキは「私ひとりだけ幸せになってもつまらんと申しますか、幸せだないと申しますか。みんなで幸せになって、初めて幸せなので」と固辞する。
トキの気持ちを汲んだ傳とタエはもう一度婿養子の線で見合い相手を探すと約束。一方、トキの言葉を障子の向こうで聞いていた父・司之介(岡部たかし)は、自分のせいで一度目の見合いを断られてしまった責任をあらためて重く受け止める。
そして二度目の見合いの日、トキのために一念発起した司之介は髷を落とし、ざんぎり頭で登場する。しかし見合い相手で旧鳥取藩の武士、山根家の男性陣は髷を残したまま。司之介は肩透かしを食らった。このペーソスとコメディが同居するシーンについて、チーフ演出の村橋直樹さんに聞いた。
■「司之介が面白いのは、岡部たかしが真面目に演じるから」
「司之介が面白く映るのは、岡部たかしさんがああいう場面でもおどけないからです。はたから見たら司之介はおどけた人物なんですが、それを岡部さんが真面目に演じるから面白い。司之介は真剣にちょんまげ頭がカッコいいと思って、ざんぎり頭も誠意だと思ってやっている。彼なりに誠実な身なりでやってきたつもりなんです」
「仮にあそこで岡部さんが『こんな格好で毎度バカバカしくやらせていただいております。岡部でーす』みたいなお芝居になってしまうと全く笑えなくなるんですけど、岡部さんは決してそうならない。切実にこの時代を生きている人が、真剣に正しいと思ってやっている。それがズレているから笑える。岡部さんはそこを体現できる数少ない役者さんだと思います。すごく助かっています」
■岡部たかしは「影の演出家」
また村橋氏は、ふじきみつ彦脚本の独特な味わいにも言及する。
「『真面目にやるから面白い』というのは、ふじきさんの脚本の性質そのものでもあると思います。『はたから見たらくだらないことかもしれないけれど、本人はいたって真剣』という可笑しみは、ふじき脚本の真骨頂であり、同時にかなり難しいんです。ふじきさんの会話劇の良さを消さずに、時代劇らしさも残す。両立しづらい二者を違和感なく共存させるのは、なかなかの挑戦だと思っています」
「岡部さんとふじきさんは、長らく一緒に劇団をやってきた盟友。岡部さんはふじき脚本の『真剣にやるからこそ面白い』というところを深く理解しておられます。だから僕はいつも他のキャストの皆さんに『岡部さんを見てください』と言っています。すると皆さん、すぐにシーンの意図を理解してくださって。『ばけばけ』の現場が、『はい笑ってください』みたいなお芝居を誰もやらない現場になっているのは、岡部さんのおかげです。影の演出家といっても過言ではないかもしれません」
『ばけばけ』の世界で生きる人たちが見せてくれる大真面目な「泣き笑い」。これこそが、本作の真髄と言えそうだ。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)