11月に大阪府の服部緑地野外音楽堂で開催される「ごきげん祭」。昨年は、初回にもかかわらず延べ700人が訪れた。自らイベントを立ち上げて実行委員長を務める西村美保さんは、ふだんは会社員として働いている。イベントを立ち上げた動機は、なんと「趣味」だという。
とっくに趣味の範囲を超えているでしょうと思うのだが、話を聞くと趣味として開催せざるを得なかった背景が見えてきた。
■コロナ禍での閉塞感に嫌気がさして始めたYouTube
昨年「ごきげん祭」を成功させたのは、テレビ制作会社「MBS企画」で事業開発部副部長の肩書を持つ西村さん。会社主催の企画ではなく、あくまで個人の趣味で「ごきげん祭」を開催するに至った背景には、コロナ禍が大きく影響していた。
「コロナ禍で、何もできなくなったじゃないですか。みんな家にこもって、我々テレビマンも取材に出られないし、暗いニュースばっかりやってるし、テレビは何をやってるんだ!っていう憤りがあったんです」
自分ができることをやろうと考えた西村さんは、2020年にYouTubeで「めっちゃHAPPY!」という動画を制作した。
「番組をつくろうと思ったら企画書を書いたりスポンサーを集めたりして大変なので、みんなのハッピーを集めて、ちょっとでも気分をよくしようという目的で自分のYouTubeチャンネルで流していたんです」
そこから派生して、2021年に会社の有志で「ぷくすけ!」というプロジェクトを立ち上げ、WEBサイトとYouTubeチャンネルを作ったほか、これまでの番組制作で培った縁とスキルを使って様々なコンテンツを制作した。
2023年には、「ぷくすけ!」の集大成として服部緑地野外音楽堂で開催したイベント「ぷくフェス」の開催に携わり、西村さんは運営の中心的なポジションを担った。
■「ぷくフェス」は一度限りで終了→だったら自分でイベントをつくってしまおう
「ぷくフェス」は来場者から1000円の入場料を徴収し、収支は「赤字が出なかった程度」だった。西村さんは「来年もやるかどうか分からない」と思いつつも、ひとまず個人の判断で翌年のために会場の予約金を支払っておいた。だが、会社側から「ぷくすけ!」の解散を告げられ、1回限りで終わってしまうことになる。
「会社から、その情熱をもっと仕事に向けろと言われたんですが、すでに予約金を自分で立て替えていたし…」
このままだと、西村さんの損になる。会社の先輩に相談すると、「あなたが先頭に立ってやればどう?」と言われた。初めは躊躇したが、「ぷくフェス」の経験から「イベントの仕切りなら自分でやれそうだ」という感触を掴んでいたこともあって腹を決めた。
もっとも会社員の立場なので、勝手にやるわけにはいかない。社長に話を通しに行ったら「会社とは無関係なので、利益を出さないでください」という条件が付いた。利益が出たら、会社が禁じている副業とみなされるからだ。
「あくまで、地域のお祭りに勝手に参加しているイメージでといわれました」
こうして西村さんは「ごきげん祭り実行委員長」として、「趣味」の名目でイベントを仕切ることになった。数々の苦労があったはずだが、西村さんは「大変は大変だったんですけど、苦労はあんまり覚えていません。苦労と気づかないで、それさえ楽しんでいたのかもしれない」とのこと。また、準備にあたっては、美術スタッフら会社の同僚たちも作業を手伝ってくれた。
そんな経緯があって2024年11月23日、入場無料で第1回「ごきげん祭り」が服部緑地野外音楽堂で開催された。家族みんながごきげんになれるお祭りのシンボルとして、廃材や使用済みペットボトルを集めて「手作りみこし」を制作。ステージでは、ダンサーやミュージシャンらがパフォーマンスを披露したほか、マルシェやワークショップなども行われ、延べ700人が訪れて想定していた以上の盛り上がりを見せた。
■ありのままごきげんに生きていく
西村さんはこれまで、放送時間45秒というミニ番組を担当しており、月に8本を製作していた。放送時間は1分にも満たないが、製作にはそれなりの時間がかかる。昨年は番組の製作と並行して「ごきげん祭り」の準備に奔走していたせいもあって、時間配分や体力面では大変な状態だった。だが今年は、昨年の経験があるため、メンタル的には比較的余裕があるとのこと。
今後の「ごきげん祭り」をどのように育てていきたいかを訊いた。
「今後はライフワークとして、年に1回やることを決めています。会場も、使い慣れた服部緑地野外音楽堂でいいかな。でもいずれは、全国の地域地域で『ごきげん祭り』を開催したい。もう、ただただみんな日々ごきげんに生きていきましょうというのが、ごきげん祭りに込めたメッセージです」
ふだんはテレビ番組のつくり手として表舞台に出ない立場だが、多くの人を巻き込んでイベントをつくる過程やステージで自らMCを務めてみて表舞台に出る楽しさを知った。
「人からどう思われようと気にしないで、格好つけず、ありのままの自分でごきげんに生きていこうと決めました」
今年の「ごきげん祭り」も、昨年と同じ服部緑地野外音楽堂で11月24日(月・祝)に開催される。
「今年も、ステージでは音楽ライブ、ダンス、和太鼓、落語など多種多様なパフォーマンスをはじめ、お客さんと一緒に行うラジオ体操・ダンス・歌など出演者もお客さんも一体になって楽しめるイベントを企画しています。出店ブースではフードやハンドメイドのマルシェ、子ども向けのワークショップもあり、家族みんながごきげんになれるお祭りです」
昨年に引き続いて参加する人もいれば、新規に参加する人もいる。また、昨年はなかった先着500人限定のプレゼントも用意されているそうだ。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)