世界的なレコードブームが起こっている。
日本国内もその例に漏れず、日本レコード協会の発表によると2024年のレコード生産額は2020年の約4倍となる80億円弱。これは1989年以来、最高記録ということだ。
Spotify、Apple Musicなどストリーミングのサービスで音楽が聴かれるようになって久しい。CDやレコードなどのディスクを"オワコン"と見る傾向もあったが、アート作品を所有したい、音楽にしっかり向かい合いたいというユーザーの欲求はそうそう簡単に消えるものではないということだろう。
そんな中、神戸市中央区の湊川神社近くに一件のレコードショップが開店した。神戸駅前の大通りから北側に入った、下町めいた街並みの一角にある「THE TRASH RECORDS」という店だ。
いくらブームと言えど、新たに開店するレコードショップなどそうそうあるものではない。はたしてどんな経緯で、どんな思いで開店に至ったのだろうか。店主の西村慎也さんにお話を聞いた。
ーーショップを開店した経緯は?
西村:昔から収集癖があり、これまでは会社員で営業をしながらリサイクル店を巡り、レコードやTシャツ、昭和期のラジカセのコレクションをしていました。しかしとうとう住んでいたワンルームマンションでは納まりきらなくなり、引っ越しと退職を機に店を始める運びになりました。
湊川神社西側地区は、個性のある飲食店や物販店がある所だったので古民家長屋でレコード屋というのも昭和なイメージで場所柄に合っているのではないかと考えました。周りの友人の反応も「モトコーが復活したみたいでいいんじゃない?」とポジティブなものでした。
ーーお店の品揃えは?
西村:狭いところで申し訳ないのですが、店頭に置いている枚数はおおよそLP1100枚、12インチ100枚、EP600枚、CD1100枚。特価300円LP、100円EPが6割を占めています。リアルレコード世代の方には聴きそびれてたアーチストの過去作品を改めて聴いたり、若い世代の方には買うのをためらってた作品に手を出すいい機会になると思います。先日は近所のベテラン女性がミッシェル・ポルナレフをごそっと買っていかれました。
店内にはレコードの他にも面白い本やビデオ、DVD、ラジカセなどもございます。路地裏のサウンドブティックとして親しんでいただけたらと存じます。
また3階の屋根裏部屋はスクリーンのある小さいシアターになっています。今後は皆様と過去のメディアを再生して楽しむ会なども催していければと思っております。拾ってきた謎テープをうちで再生するなんてのもアリですね。
ーー現在、起こっているレコードブームについて。
西村:私は今52歳なのですが、ジャケットを眺め、解説と歌詞を読みながら作り手の温度を感じるという昭和時代の音楽の聴き方がやめられません。盤を手に取り、部屋で寝転んで音楽を楽しむ時間を作る…これが贅沢な時間の使い方だと感じる人が増えているのではないでしょうか。
ジャケットの魅力も大いにあると思います。最近、レコードジャケットのような大きな印刷物を手に取る機会は少なくなったように思います。エロいジャケットの和製ムード音楽、見たこともないような世界の風景、個性的な演奏者の肖像、メッセージが込められた過激なグラフィックなど、ジャケットには興味を惹きつけるポイントが多くあります。「スマホの画面で見ていたYMOのあのレコードが本当にあるんだ!手に取ることができるんだ!」と驚く高校生もいました。当店でのレコードとの出会いがお客さまの人生を豊かにすることにつながればうれしいですね。
◇ ◇
小学生の頃、公園を整備している工事現場で土器を発見したのがきっかけで収集癖に目覚めたという西村さん。“もの”を直に手にとるという体験はハイテク化してゆく現代社会で確実に失われつつあるものだ。スマホで音楽を聴けるのは確かに便利だが、ディスクやジャケットを手にとって聴くレコードやCDの魅力は今後もさらに注目されるのではないだろうか。
THE TRASH RECORDS 店舗概要
所在地:神戸市中央区多聞通4-3-3
営業日時:金・土・日 16時~19時
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)
























