生活に悩む女性※画像はイメージです(webbiz/stock.adobe.com/)
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「真面目に働いているのに、普通の暮らしができない」

 九州の地方都市でスーパーの準社員として働く山村美咲さん(仮名・28歳)は、そうこぼします。

時給は地域の最低賃金954円。週5日・1日8時間をフルに働いても、社会保険料などを天引きされて、手取りはおよそ12万5千円。

家賃や光熱費、食費を払うと、残るのはわずか2万4千円ほど。貯蓄もなく、苦しい生活が続いていました。

■生活保護との比較で浮かぶ矛盾

しかし、もし同じ地域・同じ28歳・無収入の単身世帯で生活保護を受ける場合、生活扶助が7万円程度、住宅扶助が3万円程度となり、月10万円ほどになります。さらに医療費自己負担ゼロや税の減免もあります。結果として「生活保護の方が余裕がある」という逆転現象が生まれるのです。

■なぜ逆転するのか?

このような現象が起こる理由として、以下のような点が挙げられます。

▽社会保険料の負担

給与から天引きされる年金や健康保険料は、「毎月、大体どれくらいの報酬を受け取っているか」によって決まるため、頑張って働いて報酬が増えても天引きされる金額が増えてしまいます。しかし、生活保護利用者は全ての負担が免除されます。

▽生活保護の包括性

生活保護には、衣食住だけでなく、医療、介護、教育、生業(仕事)、出産、葬祭といった「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な生活のあらゆる側面を援助の対象とするため、現金以上の支えになることがあります。

■「助けを借りてもいいんだ」と気づいた瞬間

ある夏の日、山村さんの家の冷蔵庫が突然動かなくなりました。

修理には数万円、買い替えとなれば十万円近い出費。現在の生活では、とても払えそうにありません。一方で、「役所に相談するなんて恥ずかしい」「怠けてると思われないだろうか」という迷いもあり、立ち尽くす日が続きました。

転機は、職場の同僚との何気ない会話でした。

「知り合いが家計の苦しさについて自治体に相談したら、“フードバンク”を紹介してもらえて、食べ物をもらえたんだって」

困っているのは自分だけではないのだと思えたことで、ようやく市役所へ向かう決心がついたのです。

窓口で事情を伝えると、職員は穏やかに答えてくれました。

「働いていても使える制度がありますよ。所得上限はありますが、家賃には住居確保給付金が利用できます。また、生活福祉資金という貸付制度もあります。食べ物に困ったらフードバンクも紹介できます」

 窓口を出るころには、不安で押しつぶされそうだった胸が少し軽くなっていました。

■誤解してはいけないこと

働いているのに生活保護世帯よりも苦しいという現象は「生活保護が手厚すぎる」からではありません。

生活保護は憲法25条に基づいて誰もが利用できる大切な制度です。

そして、生活保護だけでなく、働きながらでも利用できる支援制度が確かにあります。困ったときに頼ることは“甘え”ではなく、自分を守るための大切な選択なのです。

■つながることで、少し安心を

「働いているのに生活保護以下」という現象は、誰にでも起こりうることです。

しかし、そのとき頼れる制度や人がいると知るだけで、心は少し楽になります。

山村さんは今も節約生活を続けていますが、「もしものとき相談できる窓口がある」と知ったことで、不安が和らいだと話します。

孤立した自己責任論ではなく、支え合いの中で生きていくこと。それが、明日を安心して迎えるための小さな一歩になるのです。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)