3歳の子どもがいるAさんは共働きのため、保育園を利用しています。いつもはAさんが保育園の送り迎えをしていますが、県外に行く出張があったため、お迎えを夫にお願いすることにしました。出張する当日の朝も「今日私出張行くから、保育園のお迎えお願いね」と言うAさんに、夫も「はーい」と返事をしていました。
しかしその後、出張先から帰ろうとした矢先に保育園から着信が。何かあったのかと思い、電話に出ると担任の先生から「お迎え来られていないんですが」と衝撃的な一言が告げられます。急いで夫に電話をすると「急に会議が入って」と言われ、「今日はお迎え行けないって言ったよね?!」と電話越しに怒ると「あーはいはい、今行きます」と、ことの重大さが分かっていないような返事が返ってきました。
子どもからも保育園からも信頼をなくすような行為であること、育児に対する温度感の差が浮き彫りになり、Aさんは不満を感じます。このような夫に、お迎えを確実に行ってもらうようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。カップルセラピストの石田真央さんに聞きました。
■夫にデメリットが生じる経験が重要
ーお迎えをお願いしているのに、仕事を優先する理由は何が考えられるでしょうか?
シンプルに理由を想像すると「忘れていた」「覚えていたけれど先送りにした」の2択です。忘れていた場合は「急に会議が入って」と言うのは、Aさんに対する夫の苦し紛れの言い訳ですので、深く取り扱っても仕方がない部分です。
覚えていたけれどお迎えを先送りにし仕事を優先した場合は、Aさんと夫の社会通念の違いが浮き彫りになったということだと思います。例えば、保育園に預ける時間が18時までという契約だった場合に、極力18時に間に合うように迎えにいく親御さんと、大体18時頃に迎えにいく親御さんがいらっしゃるでしょう。
これは、それぞれの親御さんが持つ社会通念の違いです。こういった違いが夫婦間で発生した場合、守るべきルールを再認識する必要がありますが、Aさんのケースの問題は、夫が「保育園との信頼関係が崩れかけているという自己の状況を理解できないこと」だと思います。もし夫に直接保育園から連絡がきた場合は、少しは自覚が芽生えたのかもしれません。
ー育児に対する温度感の差は埋められないのでしょうか?
そんなことはありません。この場合、夫は「自分は育児に冷めている」とは言わないはずです。カップルセラピーでも夫婦間の育児に対する姿勢の違いについてよく話題になりますが、夫としては「自分も熱心に育児に向き合っているつもり」と言うのが大半です。
「責任を持って育児に向き合っていればこんなことは起こらないはずだ」というAさんの価値観が「温度感の差」として認識されるのだと思います。温度感の差は、いわゆる孤独感に繋がっていきます。2人の子どもなのに、まるで自分1人が必死になっているような感覚になり、子どものことで夫の対応を批判しても「重大さをわかっていない」ようで手応えがなく、Aさんは疲弊してしまいます。
仮にAさんが夫に怒った時「本当にごめん!すぐ迎えにいく」と言ってくれたら、「温度感の差」は軽減したのかもしれません。温度感の差と表現すると難しいですが、夫婦間のコミュニケーションの問題が大きいように思います。
ー確実にお迎えに行ってもらうようにするためには、どうすればいいのでしょうか?
こういったケースの場合、夫の「自分にとってのデメリットが生じる経験」が非常に重要です。Aさんの夫は今のところ、お迎え時間にルーズなことで自己にデメリットが生じていません。現状を改善したいというモチベーションが得られにくい状態です。
仮に夫が大事にしているのが「仕事をしている自分」であった場合、仕事で信頼している仲間から指摘を受けること(職場での評判が下がること)が効果的である場合もあります。「仕事をしてお金を稼ぐ」ことが大事だった場合は、保育園から夫に対して延長保育料の請求があると、効果的かもしれません。
しかしカップルセラピストとしては、周囲の対応で夫が変わったとしても、結局は夫が自分の妻であるAさんの言葉を軽んじて受け止めてしまっている現状に夫婦関係の危うさを感じます。どうしてAさんの言葉を素直に受け止められないのか、夫の考えを聞いてみたいところです。
◆石田真央(いしだ まお)臨床心理士・公認心理師
カップルセラピー専門機関「COBEYA」カップルセラピスト。家族療法の専門家として、夫婦・カップル間の悩み、子どもや大人の精神疾患や発達障害、問題行動など、幅広く相談を取り扱ってきた。現在は自治体の「パパママ教室」講師として、産後の夫婦のメンタルケアについても発信。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























