「ばあちゃん喫茶」城南区梅林店のみなさん
「ばあちゃん喫茶」城南区梅林店のみなさん

75歳以上の女性に働く生きがいと収入を作ろうと奮闘している福岡の会社が注目を集めている。「うきはの宝株式会社」(福岡県うきは市、大熊充・代表取締役)だ。

同社は2019年、大熊さんが故郷の福岡県うきは市で設立。事業内容は、食品製造販売(通販、店舗販売、小売、イベント出店)、高齢者の就労コンサルティング(これから高齢者とともに仕事を作ろうとしている起業希望者や、既存の事業に高齢者の就労を組み込もうと検討している人)、「ばあちゃん喫茶」(ばあちゃんたちが働く喫茶店)の運営、「ばあちゃん新聞」の発行など。

大熊さんはこれまで、高齢者が働き報酬を得ることで、生きがいを取り戻す姿をたくさん見てきた。「ばあちゃんたちが働く場をつくり、食や料理など得意なことを活かせる機会を創出することが、社会保障費の増大を防ぐことに繋がる」と話す。

■「ばあちゃんの手料理を食べたい」お客に人気のトンカツ

「ばあちゃん喫茶」は現在、福岡県内の3箇所(福岡市城南区、福岡市早良区、春日市)で開店。そのうちのひとつ、福岡市城南区梅林店(毎週木曜日11:30~14:00のみ営業、要予約)を訪ねてみた。 

店に入ると、エプロン姿の80歳以上のおばあちゃんたち5人が出迎えてくれた。彼女たちは福岡市早良区四箇田団地内にある小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」に通い、サービスを利用しているおばあちゃんたち。同介護施設とのコラボ運営だ。

勤務については、本人が希望し、家族の了解がとれた人たちのみが参加。常にスタッフが寄り添い、安全面には細心の注意を払う。あくまで体に負担がかからない範囲で働いている。もちろん報酬ももらえる。

メニューは「トンカツ定食」1品のみで、調理を担当するのは谷口正子さん(85)。「お腹がすかないように、息子が喜ぶものをたくさん食べさせたい」と、自宅で毎日作るようになったトンカツだ。

「認知症になり、介護が必要になった今も、谷口さんの料理の味は確かです。専門店の味とも違い、谷口さん特有の作り方があるんですよ。お肉を柔らかくするためよく叩いたり、サクッとした歯触りを出すための工夫をしたり。そうしたばあちゃんの手料理を食べたいと来られるお客さんは多く、『心も体もあたたまる』と好評です」(大熊さん)

2025年4月に開店して1年になる。「なごみの家しかた」代表理事の宮川伸吾さんは、おばあちゃんたちの活躍を現場で優しく見守る。

「お客さんから『ありがとう』『美味しかったよ』『また来るね』っていわれたときのみなさんの表情は、施設内にいる時と全然違うんですよ。誰かのために何かをしたいとの思いが達成できた満足感というか。ここでは報酬ももらえますしね。いろんなお客さんと出会い、会話を交わすことは、自分の価値を再確認する機会でもあります。こうして社会参加することで、認知症の症状の進行を遅らせたり、緩和に繋がったりといった効果もあると思っています」(宮川さん)

■トンカツを看板料理にしたのは、切実な理由があった…

そして、こう続ける。「実は、以前、毎日トンカツを作ってしまうお母さんに、息子さんが困り果てていたという切実な背景がありました。それが今では『ばあちゃん喫茶』の看板メニューとなり、お客さんや地域の方から感謝され、いきいきと働く姿を見て『頑張っている母を応援したい』と喜ばれています」

大熊さんは「それはやっちゃダメ、危ないから余計なことはしないでといった、できないこと探しの介護ではなく、元気な方は地域でいろんな人たちと交流して自分の能力を活かして働き、収入も得られる機会や場をつくっていくことが、今後ますます大切になっていくと考えています。ばあちゃん喫茶という私たちの試みはまだ小さな一歩ですが、高齢者が当たり前のように働くことができ、生きがいを感じて輝ける、そんな社会を思い描いています」と力を込める。

おばあちゃんたち(ときどきおじいちゃん)高齢者の活躍、働く場を全国へと広げていくため、「ばあちゃん喫茶に加盟できるようなフランチャイズ展開をしています(10万円台~)」と大熊さん。興味がある方は、HPをチェックしてみては。

(まいどなニュース特約・西松 宏)