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(7-2)生き残り模索する下請け< 常に難しい仕事に挑戦する
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 クリーム色の真新しい建屋からの照り返しが、目にまぶしい。神戸市西区櫨谷町。震災で被災した中小企業向けの仮設賃貸工場が十棟並ぶ。入居企業は五十九社を数える。

 一区画百二十平方メートル。寺本登さん(55)の鉄工所は、その半分を間借りしている。操業開始の日、親会社から借り受けた自動旋盤装置がうなりを上げ、銀色に輝く円盤が削り上がったとき、傍らの妻と顔を見合わせた。「やっと再開できた。これで家族四人やっていける」。長田区の自宅、工場が全壊して半年がたっていた。

 寺本さんはいわゆる「孫請け」。加工した製品は親会社である一次下請けを経由し、大手産業機械メーカーに納入される。部品は機械の旋回部のギアに使われるというだけで、正確には知らない。数日おきに親会社から材料が届き、工賃は一個約百円。今は震災前の半分、一日百個ほどをこなすのがせいぜいだ。

 創業した昭和四十三年以来、他社の仕事は受けないので、仕事は継続してもらえる。だが、景気に応じ、単価や量は変わる。「嫌ならよそへ仕事を回される。そこは妥協や。親会社には世話にもなっている」

 震災後も単価引き下げの通告があったが、寺本さんはすぐ了承した。

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 五七・三%。兵庫県内の全製造業に占める下請け企業の比率だ。全国平均より一・四ポイント高く、業種では非鉄金属、輸送用機械分野に多い。しかし、兵庫の特徴はなにより親会社の少なさにある。それも「親は一社のみ」という下請けが四五・〇%を占め、全国一。親から子、子から孫、孫からひ孫・。大企業を頂点に、壮大なピラミッドが構成される。それは、親会社の業績がそのまま響く世界である。

 「造船の厳しい環境を考えると、川重さんの商船建造はもう神戸に帰ってこないだろうな」。川崎重工業のある下請け企業の社長はつぶやく。

 同社の川重への依存度は八割以上。既に川重がシフトする香川県坂出市にも工場を持っており、大きな影響はないという。だが、今回の移管に伴い、現地への人員派遣、部品運搬などのコスト増はそのまま負担せざるをえない。「コストダウンの要請はさらにきつくなる。海外に出て対応するとか、独自技術で下請けから脱却するとか、道はあるだろう。が、今は川重さんあってのウチ。とことんまで行く」

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 神戸市長田区のプラスチック部品製造、明興産業の下土井康晴社長(59)には、寝耳に水の話だった。

 平成五年八月、部品製造を請け負っている大手複写機メーカーが香港に生産を集約するのに合わせ、中国広東省に工場建設を決定した。ところが、年末、同社から「建設場所が香港でないと部品を購入できない」と通知されたのだ。理由は、香港政庁が決めた現地調達率の関係からだった。

 新工場は、製品の九割以上の納入先に同社を予定していた。「やはり、やめるか…」。下土井社長はしかし、強気の決断をする。「アジアでの部品ニーズは高い。工場を立ち上げれば、発注はくるだろう」

 読みは当たった。OA機器の部品や電卓のケースなど、日系企業からの注文が相次ぐ。操業一年目を目前に控えた七月、単月ベースで黒字化にこぎつけた。高水準の成型技術が評価されてのことだった。

 下土井社長は「空洞化は、日本が先進工業国になったがゆえの試練」と受け止めつつ、こう結んだ。

 「下請けが今の仕事に安住していると、気が付いた時には、その技術は陳腐化している。常に途上国ができない難しい仕事にチャレンジし、一方で独自製品の開発を目指す。下請けの未来は、そこにしかない」

1995/8/17
 

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