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(6-2)心強い地域の支え合い ここのご飯食べると元気に
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 木曜の朝、西田みね子さん(87)は薄く紅をさし、神戸市須磨区の仮設住宅を出る。地下鉄に乗り、手押し車を押して約一時間。長田区駒ケ林町にある「駒どりの家」に着くと、昼食会の準備をしていた主婦ボランティアらが笑顔で迎えてくれた。

 「仮設の人は、お互い、あまりものも言わへんし、すごく寂しい」

 地震で壊れた家屋の撤去跡地が点在する駒ケ林地区。大きな被害を免れた駒どりの家で、週一回の老人向け昼食会が復活していた。西田さんのように、区外の仮設住宅から通って来るお年寄りは十人近い。

 ふれあい推進員の配置など、仮設住宅地区での福祉活動は始まっている。しかし、なじみの人、なじみの町から離れられず、足が向く。

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 戦後、マイホームブームが大きな時代の流れになった。神戸市でも下町から郊外へと人の移動は続いた。しかし、ブームとは縁がないまま安い賃貸住宅に住み、年金暮らしを続ける高齢者は多かった。

 一九九〇年の国勢調査によると、長田区の駒ケ林地区があるJR線以南に住む六十五歳以上の人は七千三百人。高齢化率は一九%で、全市平均の一一・五%を大きく上回る。

 ほぼ五人に一人がお年寄りという下町で、十年前、「駒どりの家」の運動が始まる。「長田に特別養護老人ホームを」がスローガンだった。当時、長田区には養護老人ホームも特養ホームもなく、希望者は長田区以外の施設に入所するほかなかったのだ。

 「年を取って体が弱っても、今まで暮らしてきた町に住み続けたい。そんなごく当たり前の願いが出発点だった」と、杉田実さん(68)は振り返る。

 予算を投じた郊外の施設より、地域の支え合う力が心強く、生きがいにつながった。

 誕生した駒どりの家は、地元住民が中心の民間団体・神戸福祉会が運営する。昨年二月、築後十年の民家を購入し改装した。約三千万円の資金は寄付と借金でまかなった。行政の援助は食費補助ぐらいで、ボランティアの平均年齢は七十歳近い。

 福祉行政の谷間にあって「老いが老いを支える」民間の小さな施設に、昨年十二月、県知事が視察に訪れた。関係者には『変化』を感じさせる出来事だった。 

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 震災後、二月十三日から活動を再開した。四月からは、知的障害者のために共同作業所も開設した。連日、被災者の利用が続いた。自宅を失ったお年寄り同士が食卓を囲んだ。

 運動にかかわってきた沢田清方・日本福祉大学教授は「戦後の福祉政策はまず制度・施設ありきで、住民のニーズとかけ離れたものが多かった。その実態が、震災でより浮き彫りになった。あるものを崩して新たにつくるのでなく、地域の力を生かす手法が求められている」と指摘する。

 竹細工を作りながら「ここの人な、みんなやさしいで。ぼくな、ここが好きやねん」と話す作業所の幸男さん(25)。昼食会を終えた西田さんは「ここのご飯食べると元気が出るんよ」と、仮設住宅への帰途に就いた。

 神戸福祉会会長の加島みち代さん(70)にとっても、目には見えない地域の力と役割を再認識する思いだ。

1995/8/16

 

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