今年の1~3月にNHKで放送された「テミスの不確かな法廷」というドラマをつくった。主人公の安堂清春は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)のある裁判官。周囲にそれを隠し、「普通」を装って生きている。「分からないことを分かっていないと、分からないことは分かりません」という考えのもと、誰もが受け流すような小さな疑問に立ち止まり、真実を見つけ出していく。
脚本開発の中で、子どもの頃の安堂は食事も忘れるほどアリの観察に夢中だった、という設定があった。ところが私は、アリにそれほど興味を持ったことがない。アリを眺め続ける安堂の気持ちが、どうにも想像できなかった。
それならすこし知ってみようと、アリの研究者、村上貴弘さんの「アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく」を読んでみた。
目からうろこが落ちる思いだった。最近の研究では、ハキリアリは仲間同士でおしゃべりし、「農業」をし、巣にウイルスを持ち込まないよう除菌までしているという。
中でも驚いたのは、働きアリがメスだということだった。私はこれまでずっと、働きアリはオスだと思い込んでいた。大きな荷物を運び、女王アリのために駆けずり回る男たち…。そんな勝手なイメージを疑ったことすらなかった。しかも、巣の外で忙しく働いているのは、年を重ねたおばあさんアリが多いという。
ほんのすこし知っただけなのに、道端を歩くアリの見え方が変わった。安堂がアリを眺め続けていた理由も、ほんのすこしだけ分かった気がした。そして、自分の思い込みに気づくことができた。
分からないことを分かろうとする。大げさなことではないけれど、心に浮かぶ小さな疑問に、通り過ぎないようにしたいと思う。
【はしだて・さとし】1981年淡路市生まれ。日本大芸術学部卒。映像プロデューサー。作品に映画「滝を見にいく」「恋人たち」、NHKドラマ「猫探偵の事件簿」「宙(そら)わたる教室」など。




















