先日、あまりに天気がいいので、出勤前にがらんとした街を歩いてみた。街路樹の脇で綿毛を付けたタンポポを見つける。
俳句や詩に、なじみがある方ではないものの、タンポポで思い浮かぶのは「ネンテン先生」こと、俳人の坪内稔典(としのり)さんの句だ。ご存じの読者も多いことと思う。〈たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ〉
あまり意味を深く考えたことはない。大変なことが起きているような、いないような。考え出すと、思考が巡って止まらなくなる。
こんなときは、誰かとしゃべるに限る。信号を待っていると、隣の若い男性と目が合った。自転車に乗り、食事宅配の「ウーバーイーツ」のバッグを背負っている。以前から興味があったので、新聞社を名乗って話しかけると応じてくれた。
聞けば、コンビニと飲食店の店員を掛け持ちしていたが、飲食店が休業になったそう。
彼いわく。配達先でお礼も言われず、ウイルスを運んできたかのように邪険に扱われると、つらい。逆に「ありがとう」「助かったよ」と声を掛けられると本当にうれしい。「接客が好きなので。早く飲食店で働きたい」と言い、去って行った。
もう一人、食事宅配の人に話しかけてみた。次に会ったのは美容師の女性で、やはり店が休みになり宅配を始めたとか。休みに入る前に、仲間の美容師がこう言ったそうだ。「俺たちの仕事ってテレワークなんかできないけど、生き残るぞ」
店員、美容師、宅配ドライバー、医療関係者、介護ヘルパー…。人に関わる仕事、テレワークできない仕事によって私たちの日常は支えられている。
アフターコロナも、ウィズコロナも、そしてIT時代も。
