日々小論

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 工場長も従業員も同じ制服で働き、お昼は同じ社内食堂で。人間重視の経営とわざわざPRせずとも、昔も今も日本の企業ではありふれた光景だ。

 かつての高度成長期、日本が躍進した要因として欧米が着目したのは、制服と食堂が象徴する労使平等の意識だった。終身雇用や年功序列も含めて「日本的経営」ととらえ、社員の能力を引き出していると分析した。

 それから半世紀。日本的経営が「雇用調整が難しい」「独創性を養わない」などと批判される一方で、人間重視の経営を今度は欧米が発信し始めた。人という資本が企業の価値を生み、研修や福利厚生など人への投資がさらに価値を生むとする「人的資本経営」である。

 日本的経営と似ているようだが、人的資本を開示する国際ルールで人への投資を可視化、つまり見えやすくした点は大きく異なる。欧米ではルールに沿う開示が義務化され、日本でも上場企業が開示対象になる。企業が投資を競い合い、働きやすさも高まると思いきや…。

 神戸大学は全国に先駆けて人的資本の研究拠点を設け、可視化で疎外されがちな働く人々の幸福追求を旗印の一つに掲げた。可視化ありきで労働環境の改善が後手に回る例があるからという。これでは開示の意味がない。「義務だから」などではなく、何のため、誰のためかという目的意識が重要になる。

 人的資本経営という用語自体は目新しいが、意図するところは多くの日本企業が以前から会得しているとの指摘もある。ルールづくりこそ欧米に出遅れたが「うちは昔も今もそうでした」と自信を持ち、持続的な発展や従業員の意欲向上、人材獲得のため、人的資本の情報開示に努めてほしい。

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