日々小論

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 「人生論ノート」で知られる哲学者・三木清の遺族から昨年、故郷たつの市に100枚以上の白黒写真が寄贈された。その中に、ハイデッガーのネガがあった。ちょうど100年前の1923年、ドイツ留学中の三木が訪ねて師弟関係となっている。未公開カットの可能性が高く、三木清研究会の室井美千博事務局長(73)は「存在しているだけですごい」とうなった。

 ハイデッガーの主著「存在と時間」はその4年後の出版。一時はナチスドイツに加担して批判されたとはいえ、20世紀最大の哲学者と呼ぶべき存在だ。弟子の三木は1945年に治安維持法違反で検挙され獄中死するが、その3年前には戦争協力に駆り出され、陸軍報道班員としてフィリピンに派遣された。

 「昭和十七年 マニラホテルにて」。寄贈写真の1枚の裏には三木特有の角張った筆跡があった。軍人たちと熱帯用ジャケット姿の三木らが並ぶ。報道班員の集合写真のようだ。私も分析作業を手伝った。

 班員には戦後「青い山脈」を著した石坂洋次郎、「人生劇場」の尾崎士郎、「麦と兵隊」の火野葦平ら人気作家がいたはず。石坂は別カットに裏書きがあり、太い眉も本人に間違いない。尾崎は他の従軍記に「のどに包帯を巻いていた」とあるのに気付き特定できた。火野に似た人物は背丈が合っていなかったので別人と判断した。

 「『ファミリーヒストリー』みたいですね」。分析の過程を記事にすると、地道な調査で人気を呼ぶNHKの番組に例えてくれた人がいた。寄贈写真は27日からたつの市の霞城(かじょう)館で公開される。哲学者は戦地をどう見たのか。多くの人が思いをはせれば、新たな「三木清ヒストリー」が浮かぶかもしれない。

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