新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが今月8日、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。その10日ほど前、平時への移行を印象づける言葉を、コロナと闘ってきた医師から聞いた。
「これまでは世間が医者に合わせてくれていたけれど、これからは医者が世間に合わせないといけない」
言葉の主は、神戸市立医療センター中央市民病院感染症科の医長黒田浩一さん(38)。恐らくこの3年余り、最も多忙だった医師の一人だろう。同病院が5類移行をテーマに開いたセミナーの後、講師の一人の黒田さんから話を聞いた。
コロナ禍の教訓は「誰でもかかり、どこでもクラスター(感染者集団)が起こり得る」ことだという。高齢者施設などでは大規模なクラスターが相次いだが、感染そのものよりも医療の介入など対応が遅れたことが問題だと黒田さんは指摘する。
日本では流行初期、感染者やクラスターを起こした企業が激しい非難を浴びた。しかし、ウイルスの振る舞いが「未知」なのに誰かを責めても無意味だ。感染をいち早く公表し、医療などの早期介入につなげる環境づくりが次への備えに不可欠だ。
中央市民病院の看護師から、感染「第4波」で医療が逼迫(ひっぱく)した際も、一歩病院の外に出れば普段通りの日常があることに傷ついたと聞いたことがある。私自身も院内の過酷な状況を十分理解していたとは言い難い。
最重症のコロナ患者を一手に引き受けた同病院で何が起きていたのか、私たちがなぜ医療者に合わせざるを得なかったのかを検証する連載記事を担当している。タイトルは「人間対コロナ」。「人間」には弱い心を持つ私自身も含まれる。
