内輪で交わされていた流行語が、時を経てスタンダードになる場合がある。
例えば「しゃもじ」。室町時代、宮中に仕える女房の間で語尾に「もじ」を付けることがはやり、杓子(しゃくし)がしゃもじと呼ばれ、今に至る。語頭に「お」を付けるのも彼女たちのお気に入り。田楽を「おでん」、水は「お冷や」。宮中のガールズトークで飛び交っていたのだろう。
2009年初版の漫画「日本人の知らない日本語」で紹介されている説である。日本語教師の海野凪子さんの体験を基にした作品でドラマ化もされた。先日、本棚から引っ張り出して久しぶりに再読した。
このところ、気になる言葉が、「ワンチャンス」を縮めた「ワンチャン」だ。中学生の娘の会話によく登場する。「もしかすると~かもしれない」という文脈で使う。大雨警報が出た日の夜、「明日、休校かもね」と言うと、「ワンチャンそれな」と返ってきた。今もときどき戸惑うが、少なくとも中学生には定着している。
「日本人の-」を読むと、日本語が海外のさまざまな文化を貪欲に吸収しながら柔軟に変化してきたことがよく分かる。
驚くのは、「ぱ」「ぴ」などの半濁音の丸い記号「半濁点」は、16世紀に来日したポルトガル人宣教師が発明したという説だ。キリスト教の布教のために辞書を編さんする際、日本語に半濁音を表す文字がないのに困って○を付けたという。
国立社会保障・人口問題研究所は、2070年に日本の人口の10・8%は外国人になると推計している。この国に移住し、定住した人たちの流行語や創作語が根付く日はそう遠くないかもしれない。「ワンチャンそれな」である。
