神戸電鉄小野駅から北へ、小野市西本町の交差点近くに、木枠の透明なガラスに「WORKSHOP(ワークショップ)」と白文字で大書された作業場がある。デザイン事務所「シーラカンス食堂」の拠点で、播州刃物の後継者を育成する工房だ。
グラインダーやベルトハンマーなど古びた工作機械が所狭しと並ぶ。20~40代の男女が研磨機で火花を散らせてナイフを研いだり、出来上がった商品を点検しながら箱に並べたりし、主力製品「富士山ナイフ」の製造を続ける。代表社員のデザイナー小林新也さん(35)は「職人が超高齢化する中、刃物作りの伝統を今残さないと、日本は何の持ち味もない国になる」と危機感をあらわにする。
隣の表具店が実家で、三木同様、刃物作りの盛んな小野で生まれ育った。小野高校を卒業し、大阪芸術大でデザインを学んだ。古里に戻り、播州刃物や播州そろばんの魅力を発信する。
古びた工作機械は引退した職人から安く譲り受けた。5月には高松市の刃物工場へ4トントラックで道具を引き取りに行った。工場は香川県最後の鍛冶屋で、あらゆる生活道具を作る野鍛冶だった。播州刃物の後継者育成で、小林さんは伝統製法の総火造りを目標にする。
日本刀作りに古来用いられ、型を使わず熱した鉄をたたいて形作る鍛冶屋が目指す工房の姿だ。「古い道具は優秀だが、鉄くずになると再生不可能。生産されていない物がほとんどで僕たちには宝の山だ」という。
「産地の仕組みで問屋や小売店が間に入り、鍛冶屋の顔を知る人はほとんどいない」と嘆く。その顔、物作りの現場が見える町にしたい。職人育成の試みには、赤く焼ける鉄のように熱い思いが宿っている。
