神戸の街と港を朝日が染め上げる=神戸市中央区、市章山から望む(撮影・笠原次郎)

 2026年が明けた。25年は阪神・淡路大震災30年、戦後80年と、記憶と教訓を継承する大切さを改めて胸に刻んだ。新年は安全と平和な暮らしを再構築しつつ、活力に満ちた街や社会づくりに向けて歩み出す1年になる。

 25年に開催された大阪・関西万博では、兵庫の食や文化、伝統産業などの地域資源を生かした体験型観光事業「ひょうごフィールドパビリオン」に多くの人が足を運んだ。持続可能な開発目標(SDGs)の理念をプログラムに掲げ、兵庫五国のさらなる魅力発信につなげられるかが今後の鍵となる。

 今年2月には神戸空港が開港20年を迎える。昨年、新たなターミナルが完成し、国際チャーター便が就航。神戸と世界の空がつながった。インバウンド(訪日客)の増加を含め、海外へのビジネスチャンスも広がりを見せる。

 神戸の玄関口、三宮も再整備のまっただ中だ。西日本最大級のバスターミナルが入る再開発ビル「神戸三宮ツインゲート」や、JR三ノ宮新駅ビルは着々と工事が進む。震災を乗り越え、街の姿が生まれ変わっていく。

 スポーツでは、プロ野球・阪神タイガースにリーグ連覇がかかり、サッカーJリーグ・ヴィッセル神戸は王座奪還を狙う。コロナ禍で延期され、27年に関西で開催予定の生涯スポーツの国際大会「ワールドマスターズゲームズ」も準備が本格化する。

 一方で、足元の暮らしは不安定さを増している。物価高はとどまるところを知らず、所得格差の拡大が指摘されている。誰も取り残さないような経済対策が急務だ。混迷が続く中、リーダーたちはどんな指針を描くのか。「未来へ羽ばたく兵庫・神戸 新しい時代を語る」をテーマに、各界のトップに展望と決意を語ってもらった。

(写真左)斎藤元彦兵庫県知事(さいとう・もとひこ)1977年、神戸市生まれ。2002年、総務省に入り、出向先の大阪府財政課長を最後に退職。21年7月の兵庫県知事選で初当選、24年11月の出直し選で再選した。

(写真右)久元喜造神戸市長(ひさもと・きぞう)1954年、神戸市生まれ。総務省で選挙部長、自治行政局長を歴任。2012年から神戸市副市長を務め、13年11月に神戸市長に就任。25年10月の同市長選で4選を決めた。

(写真左)川崎博也神戸商工会議所会頭(かわさき・ひろや)1954年、和歌山県生まれ。80年に神戸製鋼所入社。2013年に社長就任、16年から会長兼社長。18年から特任顧問。22年11月から神戸商工会議所会頭を務め、現在2期目。

(写真右)梶岡修一神戸新聞社社長(かじおか・しゅういち)1964年、大阪府豊中市生まれ。88年、神戸新聞社入社。編集局社会部次長、経営企画室長、執行役員経営企画局長、取締役、常務取締役などを経て、2025年から社長。

■2025年を振り返って■

 司会 2025年は阪神・淡路大震災の発生から30年となりました。高市政権の誕生や大阪・関西万博の開催などもありました。どんな1年でしたか。

 斎藤 震災30年の節目でした。災害の経験や教訓を次の世代につないでいくため、皆さまと連携し、震災30年事業を展開しました。1月17日には天皇、皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、ひょうご安全の日のつどいを開催しました。防災減災の意識を皆さんと共有し、災害に強い地域社会をつくり上げたいと思います。戦後80年でもありました。今の平和や発展した社会は、先人の犠牲と戦後の多くの苦難の中で築き上げられたことを改めて考えた年でした。大阪・関西万博が開催され、県内ではひょうごフィールドパビリオンを実施しました。結果を検証し、万博のソフトレガシー(遺産)としてつなげることが大事です。厳しい物価高が県民の家計を直撃しました。はばタンPay+(ペイプラス)のような対策、医療機関や事業者への支援も進め、暮らしの安定や企業の発展をこれからも後押ししていきたいと思っています。

 久元 神戸市内で4571人の命が失われたあの震災の時に何があったのか。その後、私たちはどのように歩んできたのかを振り返った1年でした。震災はわれわれにとって予期せぬ大災害でした。想定外を想定内にしなければいけないという努力を続けてきた30年でした。例えば避難所に水がなく、トイレも悲惨な状態になる。こんなことを絶対に起こしてはいけないとの強い信念で、大容量送水管を整備しました。また、南海トラフ地震を想定した防潮堤も完成しました。都市の繁栄は強靭な災害インフラによって支えられるという信念が、30年の間に共有されました。神戸では内外から受けた支援への感謝を忘れず、大きな被害を受けた地域を支援する取り組みが市民・企業・行政レベルで続けられてきました。私たちは内外に貢献し続ける都市でありたい。そういう思いが共有されてきていることを再認識できました。

閉幕日のパレードでフィニッシュテープを切るミャクミャクと関係者ら=大阪・関西万博の会場

 川崎 昨年2月に、神戸で20年ぶりに「関西財界セミナー」が開かれました。多くの地元企業が参加し、いろいろな議論を通して、本当にいい刺激になりました。大阪・関西万博では、数多くの未来のテクノロジーが紹介・展示され、特に将来を担う若者にとって大変貴重な財産になったと考えています。神戸空港の国際化では、万博期間中を中心に多くの国内外の経済団体の方々が神戸を訪れ、神戸の優れた中小企業を紹介することができました。今後もこういった交流を続けたいと思います。また初めての試みとして、9月から10月にかけ、県内の18商工会議所をブロック分けして4地域でブロック会議を実施しました。人手不足対策や地場産業の商品のPRなど、各地域の固有課題、あるいは共通する課題について、突っ込んだ本音の議論をすることができました。今後もさらに議論を深めていきたいと考えています。

 梶岡 まずは阪神・淡路大震災30年です。「30年限界説」とあるように、歳月を経て世代交代も進む中、当時の記憶の継承が難しくなっていると感じます。しかし、次の自然災害が起きた時、1人でも多くの命を救うためには、経験や教訓を語り継いでいかなければいけないとの強い思いで震災報道を重ねてきました。超高齢化や過疎化、ジェンダーと災害リスクなどの視点も加えながら、災害への備え、復興のあり方をお示ししました。政治が大きく動いた年でもありました。参院選での自民党の大敗、初の女性首相誕生、連立政権の枠組み変更もありました。暮らしやビジネスに作用する政治の実情を報道していきたいと思います。もう1点は、やはり物価高。大企業と中小企業の格差が広がり、暮らしが厳しいとの声も聞こえます。社会から取り残され、声を上げることが難しい人が増えないよう、目を向け続けます。

「1・17」を忘れない。継承のため東遊園地の竹灯籠の前で手を合わせる人たち

■交流人口を増やす取り組みは■

 司会 昨年は大阪・関西万博に伴い、兵庫各地は来訪者でにぎわいました。観光やビジネス面で交流人口を増やすには、どんな取り組みが求められるでしょうか。

 久元 交流人口の拡大という意味で、神戸空港の国際化は大きな出来事でした。25年4月に国際チャーター便の運航が始まり、定期便に近い運航が行われています。神戸が世界と直接つながり、新たな国際都市としての可能性を手にすることができました。この可能性をどう生かしていくのか、神戸市政に問われていると思います。グローバル社会の中で神戸経済が海外とつながり、どうビジネスチャンスをつくっていくのかが問われます。学術面での交流、テクノロジー開発の面での交流もあると思います。神戸空港の近くで展開している医療産業都市も、新たなステージを迎えることになります。世界に貢献できる発明が生まれる可能性もあります。例えば芸術文化、スポーツなど、交流をキーワードにこのポテンシャルをどう開花させていくのかが、これからの神戸市政の課題だと感じています。

 川崎 地域経済の活性化には交流人口の拡大が必要です。その方策は観光、ビジネス、国際会議などのMICE(マイス)、そして新しい催しだと思います。神戸空港を含めた関西3空港の需要拡大を図るには、神戸から西のエリアの需要をいかに取り込むかです。神戸と明石、加古川、高砂、姫路の五つの商工会議所で、5都市を巡る観光パンフレットを作りました。今後さらに地域を拡大できないか、検討しています。神戸空港の国際化を生かすために、海外とのビジネス交流の維持拡大も大きな課題です。神戸の活性化にはMICEの誘致や競争力強化が不可欠ですので、神戸市と施設の在り方を議論しています。神戸にはルミナリエや神戸まつり、神戸マラソンなど集客力の高い催しがありますが、それらと共存しつつ、さらに兵庫・神戸の優秀な技術を発信できるようなイベントが必要だと思っています。

神戸空港に就航したスターラックス航空(手前)と大韓航空の機体。左奥はスカイマーク機

 梶岡 兵庫県内はあちこちに素晴らしい観光資産が散らばっています。例えば銀の馬車道。明治時代に造られた馬車専用道路で、姫路と生野鉱山を結んだ道です。日本遺産にも認定されています。開通から今年で150年を迎え、沿線自治体が観光客誘致へプロジェクトを進めています。但馬では豊岡演劇祭が定着してきました。昨年は5回目で、新温泉町が加わって但馬3市2町全域に広がりました。姫路では国内外の若いバイオリニストを対象とした「姫路国際ヴァイオリンコンクール」の計画が進められています。一方、兵庫の観光における課題は滞在時間の短さです。例えば神戸から西へ、あるいは瀬戸内エリアや南北の行き来につないでいくことが県内周遊のポイントの一つになると思います。それぞれの観光コンテンツに磨きをかけ、連携して、より魅力的な体験を提案していくことが求められていると考えています。

 斎藤 万博会場本体は多くの来場者で盛り上がりましたが、会場以外は想定より観光が伸び悩みました。万博会場で多くのバス運転手が必要になった影響で、温泉地などへの団体旅行が減ったとも分析されています。兵庫県の経済対策として冬場の閑散期においてバスツアーなど観光地への誘客に取り組みます。今後、神戸空港国際化により交流人口の拡大が想定されますが、オーバーツーリズムを生み出さないよう兵庫の魅力・地域資源を発信し、量より質を目指していくことが必要です。淡路の線香や姫路などのマッチ、丹波焼、但馬牛、播州織をはじめ地場産業などの素晴らしさを発信するプログラム(ひょうごフィールドパビリオン)をそろえました。27年のワールドマスターズゲームズなども生かしながら、県内外の人に兵庫の地域資源を楽しんでいただく仕掛けづくりを続けていきたいと考えています。

豊岡演劇祭2025で大道芸を楽しむ観客たち

■連携とにぎわいで、持続可能なまち・地域社会を■

 司会 三宮を中心に再開発が進んでいます。人口減少社会の中、持続可能な街や地域づくりには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。

 川崎 地元企業が元気であり続けられるかどうかだと思っています。中小企業の活力強化に特効薬はありませんが、自社の魅力や強みを発信したい、新商品を開発したいという前向きな会社には、商工会議所も伴走支援を強化していきたい。最近、特に重要だと思うのは(製造現場を一般公開する)オープンファクトリーです。どこも採用の難しさ、人材不足という悩みは共通しており、自社を地元の学生らに知ってもらう機会につながればと思います。次世代産業では神戸医療産業都市関連のビジネスがありますが、昨今では医療だけにとらわれず、バイオものづくりや新素材、脱炭素関連の優れた研究やスタートアップ(新興企業)が出てきています。そういうビジネスをいかに育成、誘致するかが重要です。神戸発の研究も進んでおり、常にそういう会社や技術をウオッチし、会話を重ねていきたいと考えています。

 梶岡 兵庫、神戸はスポーツを楽しむにはとてもぜいたくなエリアです。プロチームがそろい、新たにアイスホッケーのスターズ神戸がアジア・リーグに参入しました。スポーツは生で観戦すると断然面白い。スポーツの吸引力や集客力を生かして、地域の魅力発信につなげられるのではないかと思います。文化面でも、神戸市立博物館で開催中の「大ゴッホ展」は、県外からも多数の方がお越しいただいています。こうしたイベントが街の活性化や再生に結びつくように願います。一方で、地域の将来像に目を向ける必要があります。交通や集落の維持が難しくなっており、JR西日本が公表した赤字ローカル線では、県内でも加古川線など5路線7区間が対象となりました。学校や地域医療の機能維持も喫緊の課題です。大学やスタートアップと連携し、次世代を担う新しい芽を地元から育てていくことも大切だと思います。

再開発が進むJR三ノ宮駅前

 斎藤 農林水産業をしっかり支えることが大事なポイントの一つです。兵庫の農林水産業は関西屈指の生産規模であり、自然環境が大きく変化する中、食料安全保障の維持が必要です。有機農業は新規就農者にも人気があるので、26年には県立農業大学校に有機農業アカデミーを新設、環境創造型農業を担う人を増やします。毎日の食を支えるコメの品種改良を進め、熱に強い「コ・ノ・ホ・シ」を導入しました。カキの大量のへい死も問題になりました。原因を究明して対策を講じていくことで振興にもつなげたいと考えます。農林水産業を支えていくことは、農村部の地域コミュニティーを支えることになります。2月には環境創造型農業を応援する条例制定を目指します。これらの取り組みが、兵庫県全体の地域コミュニティー、地域社会の維持にとって大事だと考えています。

 久元 神戸には多様な顔があります。都心、下町、既成市街地、郊外のニュータウン、農村の里山もある。この特性を生かしながらバランスの取れたまちづくりをしなければならない。三宮周辺ではタワーマンションを建てにくくする政策をとりました。都心は商業・業務機能を重視し、15年に三宮の再整備基本構想を作りました。西日本最大級のバスターミナルが入るビルは27年12月に完成を見込むなど、神戸の都心は、ウオーターフロントを含めて大きく変わろうとしています。郊外では駅前のリニューアルも進めてきました。神戸の多様な顔を生かし、将来世代に誇りを持って引き継げる街を目指してきました。その時に大事なことは自然との共生です。神戸の豊かな自然に親しんでもらい、里山を維持、再生するための活動に企業や市民も参加していただく。これが持続可能な街につながると思います。

外国人の観光客が目立つ国宝・姫路城

■新年の抱負■

 司会 世界情勢の不安定化、国内経済の停滞感が続きますが、2026年はどんな年になるでしょうか。目標、抱負を一言でよろしくお願いします。

 梶岡 「情報リテラシーの向上」です。現代のあふれかえる情報の中では、正しい情報をどう見極めるのかが肝心です。その際に情報リテラシーの向上は不可欠だと思います。SNS(交流サイト)やネットは便利ですが、不確かな情報や人をおとしめる言葉があふれ、生成AI(人工知能)を使えばフェイク動画が簡単に作れます。自分の嗜好に合わせた情報が集まる傾向があり、それを十分認識しながら上手に利用することが大切です。一方、既存メディアへの厳しいご意見も真摯に受け止め、見直すべきは見直すという姿勢で対応しなければなりません。昨年夏の参院選では、ファクトチェックを本格化させました。健全な情報空間があればこそ、民主主義社会は維持できます。地域社会の安心安全をサポートし、魅力発信や課題解決に貢献しようということを胸に抱きながら、この1年を過ごしたいと思っています。

 斎藤 「次代を拓く兵庫の力」です。昨年は阪神・淡路大震災から30年、戦後80年でした。震災や戦争の記憶、教訓を次世代につなぐことが大事と考えています。少子化が課題になっていますが、そんな時代だからこそ、未来を担う子どもたちが夢や目標に向かってチャレンジでき、個人のポテンシャルを発揮できる社会をつくることも大事です。県では若者・Z世代応援パッケージを大きな柱にしており、体育館へのエアコン整備や部活動の支援といった環境改善を進め、高校生が学業やスポーツ、文化活動を大いに頑張り、青春を謳歌できるよう応援します。県立大学の授業料無償化をはじめとする高等教育の負担軽減なども率先してやりつつ、国にも訴えかけるなど施策を充実させていきたいと思います。不登校対策やケアリーバー支援、ヤングケアラー支援など課題を抱える若者へのサポートにもしっかり取り組みます。

 久元 「人間らしいあたたかい街」です。神戸は人間らしい温かい街でありたい、とずっと思ってきましたので、ぶれずに追い求めていきたいと思っています。AIなどのテクノロジーはどんどん進化します。しかし私たちは人間を中心に置き、テクノロジーを使いこなして、一人一人の市民の幸せにどうつなげていくのかを追い求めていかなくてはなりません。ネットの世界ではさまざまな言説空間の課題が出てきています。私たちはネットの世界だけで生きるのではなく、顔の見える地域社会を大切にしなくてはなりません。神戸は自然が豊かです。その環境で、子どもたちが伸び伸びと体を動かせるようにしたいと思います。神戸の子どもたちが、ネット社会ではなく、現実の世界と向き合って成長できる環境を、同じ問題意識を持つ市民や企業と連携して、つくり上げることが大事だと思います。

 川崎 昨年11月の2期目就任時に、スローガンを「まちの魅力と経済を一段高みへ、その強い思いで行動を」としました。今年はその実現に向けて一歩一歩進んでいきます。阪神・淡路大震災で神戸、兵庫の産業や経済は本当に大きな被害を受けました。当時の商工会議所の皆さんは、いかに早く産業や経済を元に戻すか、まちの活性化を図るかが、今を生きるわれわれの責任だという強い使命感で行動されたと聞いています。当然、今と置かれた環境は違いますが、経済を高みへ引き上げたいという使命感は、いつの時代も同じだろうと思います。神戸商工会議所は28年に設立150年を迎えます。28年に向け、今実現できることは必ず成し遂げたい。時間軸の長い課題や対話を重ねないといけないことも多いと思いますが、少しでも兵庫・神戸の産業や経済を高みに引き上げるために、最大限努力したいと考えています。

2026年の抱負(左から)
斎藤元彦兵庫県知事     「次代を拓く兵庫の力」
久元喜造神戸市長      「人間らしいあたたかい街」
川崎博也神戸商工会議所会頭 「一段高みへ」
梶岡修一神戸新聞社長    「情報リテラシーの向上」