神戸市須磨区の山陽電鉄板宿駅近くで、約70年にわたり喫茶店を営む96歳の店主がいる。「喫茶みどり」(同市長田区)の吉原豊子さん。4人掛けのテーブルが4卓並ぶ店舗を、1人で切り盛りしてきた。仕事はきっちりこなすが、しゃべり出したら止まらない。最後は決まってこう言う。「本当はおとなしかったの」。軽妙な語りで周囲に笑いと元気をもたらす吉原さん。どんな人生を送ってきたのだろう。(門田晋一)
■石川県輪島市生まれ、関西弁も怖くて不安だった
吉原さんは1927(昭和2)年、石川県輪島市で生まれた。14歳の時に太平洋戦争が始まり、戦争末期の高等女学校卒業後は飛行機の製造に明け暮れた。「若いころは男の人と話したことがなくて、青春なんてなかった」
終戦の翌46年、戦地から復員した母親のいとこと結ばれ、2男1女をもうけた。だが、夫婦の価値観が合わず離婚。ふるさとを離れ、知り合いのつてで明石市に移り住み、運送会社などに勤めた。「土地勘もなく、関西弁も怖くて不安だった」と振り返る。
その後、知人の紹介で、マッチメーカーに勤務する21歳年上の技術者の男性と再婚することに。店舗が併設された中古住宅を購入し、吉原さんは生活を支えるために55年、喫茶みどりをオープンした。店名は、以前この場所にあった店の名をそのまま引き継いだ。
■コーヒー飲んだことない、入れ方も知らず