神戸市営地下鉄北神線の谷上駅。市営化から5年が過ぎ、利用は増加傾向にある=神戸市北区
神戸市営地下鉄北神線の谷上駅。市営化から5年が過ぎ、利用は増加傾向にある=神戸市北区

 人口減少が進む神戸市にとって、市内38・1キロを走る市営地下鉄の運営は将来にわたる大きな課題だ。市営化から5年が経過した北神線(谷上-新神戸)は乗客の増加という成果が見えつつある一方、海岸線(三宮・花時計前-新長田)は開業以来の赤字が続く。逆風の中でいかに地下鉄の利便性を維持し、地域活性化にも生かすのか。26日投開票の市長選は、その方策も問われている。(井沢泰斗)

■北神線は優等生

 「結婚して住む場所を選ぶときに、運賃の値下げは大きかった。三宮まで往復千円を超えていたら迷ったと思う」。市営地下鉄北神線の谷上駅(神戸市北区谷上東町)から、徒歩5分の距離に住む会社員福本亮介さん(38)は、市営化の「恩恵」をこう表現した。

 かつて初乗り運賃が「日本一高い」とも言われ、利用が伸び悩んでいた北神急行電鉄。2020年、市は親会社だった阪急電鉄から資産を198億円で譲り受け、市営地下鉄の北神線として運行を開始した。

 民間鉄道の公営化は異例だったが、谷上-三宮の運賃は550円から280円とほぼ半額に。1日平均2万4千人だった乗客数は、5年を経て3万5千人と5割も増加した。神戸電鉄や市バスで中心市街地に移動していた人の乗り換えが想定されるが、市交通局は「利用者目線で言えば利便性は高まった」と強調する。

■苦難の歴史

 一方で開業以来、苦難が続くのが海岸線だ。長田、兵庫区の南部地域の活性化を目指して01年に運行が始まったが、乗客は当初見込んだ1日平均13万人には遠く、3万~4万人台で推移。近年は増加傾向にあるものの、初期投資の減価償却費がのしかかり、累積赤字は1175億円まで膨らむ。

 市は中学生以下の運賃を無料にし、沿線に商業施設や公共施設を誘致するなど、利用増に注力してきた。

 近年は二つの駅が最寄り駅となるノエビアスタジアム神戸の集客に救われる。24年度は大物アーティストの公演もあり、乗客は最多の1日平均5万1764人を記録。営業収益から人件費や運行経費を差し引いた「ランニング収支」は初の黒字化を達成した。

 もっとも、減価償却費などを含めた海岸線の純損益を黒字化するには、10万7千人の利用が必要という。現実的には地下鉄全体での黒字化が目標だが、かつて50億~70億円の黒字を生んだ西神・山手線(新神戸-西神中央)も、新型コロナウイルス禍の業績から回復しきれず、24年度は地下鉄全体で21億円の赤字だった。

■増す重要性

 今後、沿線の人口減少は加速する。市交通局は本年度までの経営計画で1日平均30万人前後の乗客が、31年度には27万人台まで落ち込むと予測する。

 劇的な収支改善は見込めないのが実情だが、関西大の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「目先の収支にとらわれ、行き過ぎた合理化で利便性を低下させてしまうのが最も良くない」と指摘する。

 市交通局は経営改善策とともに、駅舎の更新やホームドアの設置、バリアフリー化などに投資している。

 宇都宮教授は「高齢化の進行により、公共交通の重要性はむしろ増す。市バスとともに交通ネットワークの回遊性を高め、住みやすい街をつくることで市全体への波及効果を目指すべきではないか」と提案する。