公開練習でサンドバッグを打つ中谷潤人=2024年7月、相模原市のM・Tジム
公開練習でサンドバッグを打つ中谷潤人=2024年7月、相模原市のM・Tジム

 日本ボクシングコミッション(JBC)では、プロテスト時に頭部CT検査、30歳以上の受験者にはMRI検査を義務づけている。また、規定数の連敗や連続KO負けの際にも、次戦へ向けてCT検査を受けなければならない。しかし、35歳以上でなければ、定期的な検査の義務はない。費用の負担が大きな課題だ。

 前世界バンタム級2団体王者の中谷潤人が所属するM・Tジムには、8月の事故で亡くなった神足茂利が所属した。事故後は同ジムの村野健会長が同じ神奈川・相模原市にある脳神経外科の協力を得て、全選手に月に1度、めまいや頭痛などの項目がある問診票を提出させる。プロ全員が試合前にMRI検査も受ける。

 スパーリングはジム単位で行われるため、JBCはトレーナーへの安全管理マニュアルを製作している。ただ、選手やトレーナーが症状に気づかないこともある。中谷はジムの取り組みによって「選手同士でちょっとした異変も意識するようになった。(不安材料を)一つ一つつぶしていき、リスクをいかに減らすかを考えている」と自覚が強まったと感じている。

 米国でともに合宿するなど神足とは親しい間柄だった。「悲しいという言葉では片付けられない」という喪失感とともに、「すごく悩む時間があった。ボクシングという競技が身近な恐怖という形で現れて、改めて考えさせられた」と言う。

 来年には世界スーパーバンタム級主要4団体統一王者の井上尚弥とのビッグマッチが待つ。世界4階級目。最初のフライ級から約4・5キロ重くなり、相手のパンチ力も上がる。31勝(24KO)。高いKO率で無敗街道を歩む中谷は「体が大きくなった分、どう自分をコントロールするか。(防御も)しっかり動いていきたい」。自らの肉体と真摯(しんし)に向き合い、大きな山に挑む。=敬称略=(船曳陽子)