経済産業省が、中長期的なエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故を教訓にした「可能な限り原発依存度を低減する」の文言が削除され、同一敷地内に限っていた原発建て替えについても、同じ電力会社なら別の敷地での次世代革新炉建設が可能になる。事実上の新設容認に踏み込んだ。

 極めて大きな計画変更にもかかわらず、国民的な合意がなされたとは言い難い。十分な議論がないままの安易な回帰は許されない。

 基本計画はエネルギー政策の方向性を定めるもので、03年に初めて作られた。経産省の有識者会議で議論し、おおむね3年ごとに見直す。

 焦点の一つとなったのは、40年度の発電量全体に占める電源別の割合だ。原発は2割程度、火力発電は3~4割程度とし、再生可能エネルギーは4~5割程度とした。23年度の実績で8・5%の原発と22・9%の再エネを大幅に増やす。

 ただ、原発回帰を実現するには、現時点で14基にとどまる再稼働を、既存原発の大半である30基程度に増やすのが条件となる。再稼働を待つ原発の中には地元同意が得られていないものや、避難計画の策定が遅れているものが含まれる。再稼働が容易ではない中、30基を前提とする計画は現実味に欠ける。

 岸田政権は22年、原発の最大限活用に方針転換する「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」を決定し、60年超運転の道も開いた。経産省が示した原案はその延長線上にある。しかし重大事故を起こした原発に対する国民の不安や不信は、今も払拭されてはいない。

 福島第1原発の廃炉は、溶融核燃料(デブリ)の取り出しなどが難航して先行きが見えない。使用済み核燃料の中間貯蔵や再処理、高レベル放射性廃棄物の最終処分などの見通しも立っていない。原発は綱渡りの状態にあると言わざるを得ない。

 計画では原発建て替え要件も緩和する。だが建設費は高騰しており、電気料金に転嫁される恐れがある。薄くて軽く、折り曲げ可能な次世代太陽電池「ペロブスカイト型」や洋上風力発電の普及に技術力を結集するなど、再エネ拡大への取り組みにより重点を移すべきではないか。

 一方、火力は全体の割合が減るものの、二酸化炭素を大量に排出する石炭火力の割合は盛り込まれなかった。脱炭素に資するためにも、各国に歩調を合わせ、石炭火力を廃止していく姿勢を示す必要がある。

 原案はパブリックコメント(意見公募)を経て閣議決定される。政府は幅広い層の声に真摯(しんし)に耳を傾け、慎重に検討してもらいたい。