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 1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の全事件記録が廃棄されていたことが本紙報道で判明し、3年が経過した。ほかの重大少年事件でも各地で記録廃棄が次々と発覚し、最高裁は記録保存の在り方を見直した。新規則では事件記録を「国民共有の財産」と位置付け、特別保存(永久保存)される件数は急増したものの、外部からの保存要望は低調だ。社会に記録を残す機運を高め、活用に向けた議論を深める必要がある。

 少年事件の審判や関連記録は成人事件の裁判と異なり原則非公開で、記録が廃棄されれば審議過程を検証する手段がなくなる。報道機関の照会などにより、全国で52件の少年事件記録が失われていたことが分かった。最高裁は2023年5月に調査報告書を公表し「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせたことを深く反省する」と謝罪した。

 一連の問題を受け、24年1月施行の新規則では保存制度を改め、誰もが保存を要望できることが明記された。同年末までに少年事件86件を含む3千件超の記録を永久保存と認定した。廃棄問題が明らかになった22年時点で少年事件記録の永久保存がなかった神戸家裁でも29件の保存が決まった。

 今後は保存した記録をどのように活用するかが焦点となる。

 最高裁によると、全国の裁判所で保存される記録は1年間で文書の厚みが推計約21~25キロにもなる。一方で、新制度が始まって8カ月間に永久保存の要望があったのは約100件にとどまった。最高裁は今月からオンラインで保存要望を受け付ける運用を始めたが、制度の活性化につながるかは見通せない。

 件数が伸び悩む背景には、加害少年の更生を重視する少年法により情報開示が制限されている事情もあるとみられる。保存された記録は事件番号で管理され、何の事件か判然とせず、内容を検索することもできない。

 今月1日のシンポジウムで、神戸連続児童殺傷事件の遺族である土師(はせ)守さんは「一定期間が過ぎれば歴史的記録として開示すべきだ」と訴えた。少年事件ではプライバシーへの配慮は必要だが、後世の検証につなげるため公開方法を含め活用に向けた幅広い議論を進めるべきだ。