大阪府堺市にある「HONBAKO」は、本箱の区画を個人に貸し出し、それぞれが「店主」となって本を販売する「シェア型書店」だ。店内には多種多様な本が並び、その一角は小さな本屋の集合体のような空間となっている。
「本と人、人と人が出会える場所に」という思いから生まれたこの書店は、たんに本を売る場にとどまらない。お店番をする、シェアスペースを利用してイベントを開く、お互いの本について語り合うなど、さまざまな交流を通じて温かいコミュニティを育んでいる。読書離れが著しいといわれる現代に、本との出会いと人どうしの確かなつながりを提供している。堺本店を取材した。
■本箱の区画ひとつひとつが小さな本屋さん
大阪府堺市にある世界最大の陵墓「大仙陵古墳(仁徳天皇陵)」のすぐ近くに、ユニークなコンセプトで運営されている本屋がある。テーブル状の平台が2つ並び、店舗の片側の壁面は18列8段の本箱で、その区画はすべて奥行23cm、縦横30cmのサイズに統一されている。もう片方の壁面は腰を下ろせるベンチになっており、ゆっくりと読書を楽しむことができる。
本箱の区画は、ひとつひとつの「店主」は「箱主さん」と呼ばれる小さな本屋で、各店主たちがお勧めの本や自費出版した本を並べて販売している。
HONBAKOの運営会社「株式会社まころ企画」代表取締役・牧田耕一さんはこう語る。
「うちの母体は、ウェブマーケティングの事業をしています。顧客を訪ねて打ち合わせをした素材を持ち帰ったら、事務所で黙々と作業をするだけで寂しいなという想いがありました。人が出入りして出会いが生まれるような関係をつくりたいと考えて、路面に出たいと思っていたのです」
そんなとき、東京にシェア型書店という業態があることを知った牧田さん。現地視察を経て、2022年9月にシェア型書店「HONBAKO」を開店した。
HONBAKO店長・中道尚美さんは、東京で見てきたシェア型書店の模倣ではなく、店を人が触れ合う場にしたいという。
「たんに本を売るお店ではなくて、ここで本と人が出会っていただくと同時に、人と人も出会って交流できる場所にしたいです」
そのために取り入れた仕組が「お店番」とシェアスペースの活用だ。
区切られた一角を「本箱」と呼び、本箱を借りて本を売る人を親しみと尊敬の念を込めて「箱主さん」と呼んでいる。箱主さんから希望者を募って、お店番をしてもらうのだ。箱で販売できるのは本だけだが「お店番」をしている間は、店舗内の平台で小物を販売したりハンドメイドのワークショップなどを開いたりしてもいい。そうすると人の流れが生まれ、地域の人が小さなイベントを開く場所に活用されたり、メンタルが疲れて気分が沈んでいた人がHONBAKOに通っているうちに元気を取り戻したりする現象が起こっている。また、京都・宇治へ引っ越していった人が自らシェア型書店を立ち上げてHONBAKO京都宇治店として、いわゆる暖簾分けをした例もあるそうだ。
店舗の一角にはカフェコーナーもあり、セルフサービスでコーヒーや紅茶などを楽しみながら読書とともにひと息つける空間となっている。
■箱主は男子高校生から80歳過ぎの女性まで老若男女問わず
箱主になるには、まずHONBAKOへ申し込みをする。料金は、人の目の高さに当たる真ん中あたり2段の目立つ場所が月4400円(税込み/以下同じ)、その上下が3850円、最下段が3300円、上部2段が2750円となっている。現在は、数箱の空きがあるという。
箱主さんは幅広い世代にわたっており、下は男子高校生から上は80代の女性まで。性別は、女性のほうが多いそうだ。
箱主さんになったら、公序良俗に反しない限り「本」を販売できる。本が1冊売れるごとに、一律100円の販売手数料を店が預かり、そのうち50円を貧困撲滅や環境保護を目的とする基金に募金しているそうだ。
また、真ん中の段の箱主さん30人は、月に1回開かれる「箱主総会」に出席する権利も与えられる。
「たとえば以前に、新聞を売りたいという箱主さんがおられて、新聞は本に当たるか否かを箱主総会で議論したことがあります。新聞も出版物ということで、販売OKという結論になりました」(中道さん)
何らかの疑問が生じたときは、牧田さんと中道さんが一方的に判断するのではなく、このように箱主総会にかけて議論することになっているという。
現在は堺の本店と京都宇治店のほか、大阪市の北堀江に新しくオープンしたばかりの店舗がある。今後は、できれば神戸、名古屋、福岡、札幌など全国に店舗をつくりたいという牧田さん。もし「シェア型書店をやりたい」という人がいたら、相談に応じてくれるという。
「本を通じた小さな出逢いが、箱主さん同士、お客さま同士、箱主さんとお客さま、ゆるやかであたたかい繋がりを生んでいけたらいいなと考えています」
年齢も職業も趣味もバラバラ、多種多様な箱主さんたちのセレクト本が並ぶHONBAKOは、本好きにとって心のオアシスのような空間だ。
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シェア型書店 HONBAKO
営業日:水、金、土、日(祝日 不定)
営業時間:12:00~16:30
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)