別居後、面会交流調停が始まったという都内在住のAさん。当初、月1回数時間程度の面会であれば、父子関係を継続するために必要だと考えていました。しかし、Aさんの夫は「最低でも月3回は会いたい」などと主張。一方、お子さんの誕生日やクリスマスなどの節目に何の連絡もなかったそうです。そんな中、お子さんが父親への恐怖心を口にするようになり、Aさんは児童相談所や臨床心理士に相談することに。調停では家庭裁判所の調査官の提案で夫婦双方への面談が行われ、調査報告書が作成されたといいます。「子の利益」とは何なのか、葛藤しながら進んだ約1年間の面会交流調停の体験談を取材しました。
■面会交流調停でみえた夫の本性・・・子が口にした恐怖心に驚愕
面会交流調停では、調停委員を介して夫婦双方の意向を伝えます。Aさんは当初、弁護士と相談した上で、月1回数時間程度の面会が現実的だと考えていました。しかし、Aさんの夫は「最低でも月3回は会いたい」「テレビ電話もできる限りしたい」などと主張してきたそうです。同居中は毎晩飲み歩き、育児への協力姿勢がなかっただけに、なぜ、別居後にこうした要求をするのか全く理解できず、困惑したといいます。
面会交流調停には、2名の調停委員のほかに、家庭裁判所の調査官も加わり、最初に「面会交流に関する陳述書」の提出を求められたそうです。仕事の状況、平日や休日のスケジュール、子の生活歴や心身の発育、健康状態などを具体的に記入するもので、父母に対する子の思い、紛争や面会交流に対する認識、子への説明の有無、今後の面会交流についての希望や配慮などに関する記載も求められたそうです。
最終的に、Aさんが作成した陳述書は10ページに及んだといいます。裁判所に提出する公的な文書なので、できる限り正確に具体的に書くことを意識し、子への関り方や接し方なども盛り込んだそうです。
Aさんは「陳述書は調査官の判断材料になるので、弁護士に法的な観点からも助言してもらいながら、内容を精査していくのが効果的」と話します。提出後、双方の陳述書を確認できるそうですが、Aさんの夫は事実と異なる記載が多く、不都合なところは「不明」と書くなど、誠意が全く感じられなかったといいます。
さらに、Aさんは「残念だったのは、夫が子どもの誕生日やクリスマス、年末年始などの節目に全く連絡してこなかったことです」と静かに呟きました。調停では「寂しい」「会いたい」と繰り返し主張していたにも関わらず、子どもの大切な日に気を配れないのは親として致命的だと憤ります。
ただ、夫の言動が一致しないことや、子どもへの配慮に欠けることなど、同居生活中に感じていた違和感の正体が徐々に顕在化し、調停を通して夫の本性が明らかになっていく感覚だったといいます。
そして、Aさんにとって最も衝撃的だったのは、お子さんが父親への恐怖心を口にするようになったことです。夜寝る前に「パパに大きな声で怒られた」「パパがおもちゃを顔に投げてきた」などと泣きながら訴えたといいます。
虐待ともとれる内容もあり、Aさんは愕然。幼稚園のお友達との喧嘩の記憶などと混同してしまっているのかもしれないと考えつつも、毎晩のように繰り返し話すので、発言の一部を携帯のボイスメモに録音したそうです。
■児童相談所や臨床心理士に相談 迅速に専門家の意見を求める重要性
Aさんが児童相談所に相談したところ、職員からは「大声を出したり物を投げたりして脅かすような行為は虐待ととられる行為」と説明があり、子どもが父親への恐怖心を訴えた際には「受け止めの言葉を掛け、抱きしめるなど安心させあげるのが大切」と教わったそうです。
そして「子どもは安心できる環境だからこそ、辛い記憶を思い出すことができ、お母さんが受け止めてくれることで少しずつ癒やすことができます」と助言されたといいます。
Aさんはより専門的な見解も得たいと考え、子育て支援センターで紹介された臨床心理士のカウンセリングも受けたそうです。単なる対処法ではなく、脳の働きや感情の整理の過程などを学ぶことで「徐々に自分の気持ちも落ち着き、冷静に状況を捉えることができるようになりました」と振り返ります。
そして「親は子どものこととなると、つい感情的になりがちですが、重要な局面での判断力が鈍ることもあります。だからこそ、悶々とする前に専門家に意見を求め、客観視することが必要」と強調しました。
また「子どもの不安な様子があれば、ボイスメモや動画などで記録しておくことも重要」だと話します。Aさん曰く、相談機関に的確に状況を伝えられ、面会交流調停のような場での重要な証拠にもなる可能性が高いといいます。
■家庭裁判所の調査官面談 調停の行方を左右する“調査報告書”
面会交流調停では、Aさんのお子さんが恐怖心を訴えている状況を受け、調査官から個別での面談が提案されました。夫婦それぞれが家庭裁判所に出向き、調査官がこれまでの子どもとの関わりや、面会交流に関する主張を聞き取るものです。
面談後、調査官の意見が書き込まれた調査報告書が作成されます。Aさんは、弁護士から「この報告書が調停の行方を左右するものであり、審判に移行した際に裁判官の有力な判断要素になる」と言われたそうです。
調査官と面談当日、Aさんは弁護士とともに家裁に向かいました。面談は個室で行われ、基本的には調査官の質問に答える形で、出産から現在に至るまで時系列に沿って、母親としてどう関わってきたのか聞かれたそうです。
子の平日のスケジュールでは、食事やお風呂、泣かしつけが何時頃かなども詳しく質問されたといいます。調査官は聞き取った内容を細かくノートに記録し、時折、認識に食い違いがないか確認してくれたといいます。
Aさんによると、子どもが安定した生活を送れていることを確かめる質問が多かったそうですが、夫婦で育児の分担はあったかなども問われ、母親と父親の双方が日常的にどのような子どもとの接点があったのかを確認していると感じたといいます。「あくまで調査官主導の面談なので、回答する際は、具体的な数字や名詞を用いながら、端的に答えるようにしました」とのこと。
面談は終始和やかな雰囲気で進む中、同席していたAさんの弁護士が「こんなこともありましたよね」「あれも大変でしたよね」などと水を向けてくれたそうです。Aさんがつい子どもの現状を伝えることに集中してしまう中、過去の夫の問題行為や面会交流における不安を話せるよう軌道修正してくれたといいます。
面談から半月ほどで調査報告書が完成。報告書では、Aさんの夫の問題行動を厳しく指摘し、お子さんが父親への恐怖心を訴えていることについて重要視するという趣旨の記載があったそうです。ただ、面会交流を可否を断定的に書いた部分はなく、今後も調停での夫婦間の協議が必要というのが要旨だったといいます。
■“子の利益”を守れるのは法律ではなく親 取材でみえた課題点とは
Aさんへの取材では、幾度となく「子の利益」という言葉が登場しました。子どもが両親から愛情を受け、安定した精神状態を保つために、面会交流は重要というのが大前提です。子の利益を最優先することに、異論を唱える親はいないでしょう。ただ、欠かしてはいけないのは「子の利益に反しないか」という視点です。
あくまで調停は話し合いの場ですが、夫婦双方が自分の都合のよい主張を展開して紛争が長引けば、子の利益からは遠のくばかりだと取材を通して実感しました。個々の感情は一旦排除して、親として「子の利益につながるか」を軸に考えることが必要です。
「面会交流調停は継続していて、まだ私の中でも答えは出ていません」と語るAさん。夫への嫌悪感に悩み、調停に出席することさえ辛い時期もあったそうです。
葛藤しながらも約1年間の調停を続けてこれた理由を聞くと「“子の利益”を守れるのは、法律ではなく、親だと気づいたからです。子どもと笑顔で過ごせる日々を手に入れるため、向き合い続けるつもりです」と一切の迷いもなく答えてくれました。
◇ ◇
「リコ活」は、夫婦問題の課題解決型メディアです。夫婦関係のトラブルや離婚で悩む人に、専門家とのマッチングの場を提供するとともに、家族のカタチが多様化する時代にあわせた最新情報を発信しています。
(まいどなニュース/リコ活)