ひとり親家庭を対象としたフードバンク事業『グッドごはん』を運営する認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(東京都大田区)は、このほど「ひとり親家庭における周囲の人や社会との関わり」に関する調査結果を発表しました。同調査によると、ひとり親家庭であることが理由で、「理不尽な状況や嫌な思い」をした経験がある人が7割近くに上ることがわかりました。
調査は、首都圏(主に東京・神奈川・埼玉・千葉)、近畿圏(主に大阪・京都・兵庫・奈良)、九州圏(主に佐賀・福岡)に居住し、同事業を利用する20~60代以上のひとり親1853人(ひとり親家庭等医療費受給者証を有する保護者)を対象として、2025年8月にインターネットで実施されました。
その結果、全体の24.5%が「孤独を感じることがしばしばある/常にある」と回答し、内閣府が2024年に実施した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(無作為抽出法により選定した全国の満16歳以上の個人2万人を対象に実施)」の2.9%の約8.4倍となりました。
また、ひとり親家庭であることが理由で、「理不尽な状況や嫌な思いをした経験がある」と答えた人は67.4%で、以下のような経験談が寄せられました。
【理不尽な状況や嫌な思いをした場面】
▽勤めている会社の業績が悪くなり従業員をカットしなければならなくなったときに、自分が雇止めにあった。その理由が、「ひとり親であり、こどもがまだ小さいため、他の従業員より責任を負わせられないから」という事だった。私はこの職場に8年間勤めて、残った従業員たちに仕事を教えていた立場だったが、ひとり親だから責任感がないというのが理由で雇止めにされたことに納得がいかなかった。
▽就業する際、子どもの急な体調不良等で預け先、頼れる人がいるか?という質問をされた。それを踏まえての採用ということが、働く意思と気力があるにもかかわらず、結局は私を見る時にそういう部分も見られるのだなと感じた。逆の立場で考えれば理解はできるが、実際頼れる身内がいなかった自分はストレートに投げかけられた質問に対して嫌な思いを何度もした。
▽仕事の面接で、ひとり親だと言う理由で落とされた。「子どもがネックですね」と言われた。
▽母子家庭で乳児と2人入居というのが理由で契約できず、家が見つからなかった。問い合わせた30件以上もダメだった。
▽部屋を借りる際、不動産屋で門前払いされた。母子家庭と言う理由で賃貸住宅を追い出された(家賃を上げるなど脅迫じみたことをされた。それに加え、反社は出ていけと突然言いがかりをつけられた。不当な請求をかけられるなど、弱者だと思ったのかかなりの嫌がらせをされた)。どのような場面でも「母子」と言うだけでなめられ、強気で対応してくる人が多い。数え切れないほどの屈辱がある。
▽子どもが小学1年生の時、教科書類30冊くらいをランドセルと手提袋に入れ両手が塞がった状態で通学路で転んでしまい、顔面を打って怪我した事がありました。あとで担任の先生から怪我の理由を尋ねられた際に「本当は、子ども自身が怪我の原因ではないにも関わらず、ひとり親だとそういう作り話をすることが多い」と虐待を疑われたことがあります。あまりにも酷過ぎて絶句してしまい、返答する気力すら失いました。
▽離婚後、身も心もボロボロで不安感に包まれながら市役所に手続きに行くと、「給付金目当てで離婚したんでしょう」と言われ、涙が出ました。
▽離婚間近の頃、行政窓口で、「離婚したって4万円くらいしか手当おりないのに、そんなの頼らないで働かないと~」と、言われた。当時は、産後1年たってなく、息子はまだ赤ちゃんだった。場が一瞬凍りつくほど冷たい言動だった。
▽勤務先で、ひとり親のほうが支援が手厚くて両親揃っている家より恵まれていると訳のわからない嫌味を言われる。
▽「(DVなど詳しい事情も聞かずに)好きでひとり親になったんだろ?」等、外側だけで決めつける人が多く辛かった。
▽子供が、学校の担任から皆の前で母子家庭は忘れ物が多い、点数が低い、など嫌なことを言われたと言っていました。
▽「ひとり親家庭だから、費用がかさむ修学旅行は辞退したほうがいいかと」と子どもの担任から三者面談で言われた。
▽学校のキャンプイベントに参加したがっていたが、父親参加が必須条件で母子家庭だと参加できない。子供の集まりだし、体力使うし、面倒だし、父親の育児参加を促す目的もあると理解している。子供には謝るしかなかった。また、子供の問題でいじめられて学校に相談した時、相手が加害者でも父親が出てくると学校は父親がいるほうに話を有利に進める傾向があるように感じた。
▽子どもの担任の先生に、学校のお友達との関係性について相談したところ(お友達に物を隠されてしまった為)「学校でも注視しますが、ご家庭でも大人の目は足りないかとは思います。お子さんの動きを注視してあげて下さい」と言われてしまい、世の中的には「ひとり親=目が足りていない」という事なのかと、深く落ち込みました。
ひとり親は生活や子育てを一人で担っているケースも少なくありません。そこで、「ひとり親家庭になってから、“生活や子育てを自分ひとりで背負っている”と感じる程度の変化」について聞いたところ、「感じることがかなり増えた」と答えた人が69.8%に及びました。
また、生活や子育てでの困りごとについて、「誰かに相談したり助けを求めたりすることに、ためらいや抵抗を感じる」と答えた人は55.7%と半数を超えています。
実際、生活や子育てで不安や悩みが生じたときに「相談しない」と答えた人は42.0%を占め、その理由として「相談しても解決しない・理解されないと思うため」(57.2%)や「相談できる相手がいないため」(53.9%)などが挙げられました。
続けて、自身の体調が悪いとき等に、「子どもの世話を頼める相手や場所はありますか」と聞いたところ、「頼める相手や場所がない」(38.4%)と答えた人は約4割に及び、子どもの世話を頼める相手や場所がない人は、孤独を感じる程度が高い傾向にあること示されました。
さらに、「似たような家庭状況や境遇の人と気軽に話をしたり交流したりする機会」については、71.3%の人が「ない」と回答し、話をしたり、交流する機会が乏しいほど、孤独を感じる程度が高い傾向が見て取れました。
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これらの調査結果を受けて同法人は、「当事者は、自身や子どもの安全、生活の安心を守るために決断を迫られ、現在の家庭状況に至った場合や、配偶者との死別で生活が急変したケースなどもあります。そうした複雑な背景や状況を排除し、単純に”自業自得”とみなしてしまうことは、当事者の孤独や孤立を一層深め、必要な支援にたどり着く機会を奪いかねません」と指摘。
その上で、「ひとり親家庭の孤独や偏見を看過することは、個人の問題にとどまらず、社会全体に深刻な影響を及ぼしかねません。ある日突然、病気や事故、家族との離別などによって生活が一変することは、誰にでも起こり得ます。”自分は支援される立場ではない”と思っていても、状況次第で、サポートを必要とする場面に直面するかもしれません。そうした時、弱者として偏見や差別にさらされることなく、安心して助けを求められる環境が不可欠です」と述べています。