父の後妻に財産を譲ったばかりに相続権が無くなった! ※画像はイメージです(metamorworks/stock.adobe.com)
父の後妻に財産を譲ったばかりに相続権が無くなった! ※画像はイメージです(metamorworks/stock.adobe.com)

50代の会社員Aさんは、10年前に亡くなった父親の後妻Bさんが、先日亡くなったと知らせを受けました。父親はAさんの母親と離婚した後に、Bさんと再婚しました。その後、父親が亡くなった際、遺産である自宅不動産と預貯金の大半を「老後の生活のために」と後妻Bさんが相続しました。

Aさんら兄弟も、当時は父親がお世話になった感謝の気持ちもあり、その相続内容に納得していました。またBさんには子どもがおらず、身内は弟が1人いるだけでした。Aさんは、Bさんが相続した財産には、もともと自分の父親が築いたものが含まれているのだから、当然自分たち兄弟にも何らかの権利があるはずだと考えました。

そしてAさんは考えた末にBさんの弟に連絡を取り、自分たちの考えを伝えました。しかし、Bさんの弟は「あなた方兄弟は、姉の法律上の相続人ではありません。したがって、姉の財産を相続する権利は一切ありません」と冷たく返事をするだけだったのです。

父親の大切な財産が、血のつながらない他人の手に渡ってしまうという現実に、Aさんは愕然とします。父親の財産を相続した後妻が亡くなった場合、前妻の子どもたちに相続する権利は本当にないのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■後妻が相続した父の遺産の行先は?

ー前妻の子は、後妻の財産を相続する権利はありますか

原則として、相続する権利はありません。日本の法律では、亡くなった方の財産を相続できる人(法定相続人)の範囲が定められています。子ども、親、兄弟姉妹などがこれにあたりますが、法律上の親子関係があることが前提です。

Aさんと後妻Bさんとの間には、法律上の親子関係がありません。もしBさんがAさんを養子にしていた場合は法律上の親子関係が成立し、相続権が発生しますが、そうでない限り、AさんはBさんの法定相続人とはならず、相続権も発生しません。

ー後妻が相続した財産に、もともと父の遺産が含まれていたとしても考慮されないのですか

残念ながら、考慮されません。10年前にAさんの父親が亡くなった際、遺産分割協議を経て、自宅不動産や預貯金は後妻Bさんの財産となりました。その時点で、それらの財産は法的にBさん個人のものとなっています。Bさんが亡くなった今、その財産が元々誰のものであったかは問われず、あくまで「Bさんの財産」として相続手続きが進められます。

万が一Bさんの弟が相続放棄をした場合、相続財産清算の過程でAさんは特別縁故者として家庭裁判所より相続財産の分与を得られる可能性はあります。また、AさんたちがBさんの弟から相続分を譲り受けることも考えられます。ただ、Bさんの弟の態度をみるといずれも可能性は低そうです。

本事例ではAさんたちにとって酷な結果となりますが、AさんたちがBさんの生前にとりえた方法としては一般的に、Bさんと普通養子縁組みする、BさんにAさんたちを受遺者とする遺言をしてもらう、AさんたちとBさんとの間で死因贈与契約を締結するなどが考えられます。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)