家族だけど他人という冷たい一言 ※画像はイメージです(naka/stock.adobe.com)
家族だけど他人という冷たい一言 ※画像はイメージです(naka/stock.adobe.com)

Aさんは、幼いころに里親であるBさん夫妻に引き取られ、本当の親子同然の愛情を注がれて育ちました。大学への進学を後押ししてくれたのも、社会人としての一歩を温かく見守ってくれたのも、Bさん夫妻でした。その感謝の気持ちは、言葉ではとても言い尽くせないほどです。

先日、そんなかけがえのない里父が、静かに息を引き取りました。深い悲しみに襲われながらも、Aさんは気丈に振る舞いました。残された里母を自分が支えなければならない、その一心で葬儀の準備に奔走しました。

しかし、その思いは無残にも打ち砕かれます。葬儀が終わり、少し落ち着きを取り戻した頃、里父の甥にあたる男性がAさんに近づいてきました。彼はBさん夫妻の法定相続人でした。そしてAさんに対して、「あなたは家族だけど他人だから」と冷たく告げたのです。

彼が言うには、里父は遺言書を遺しておらず、法律上、里子であるAさんに相続権は一切ないということでした。それどころか、この家もいずれは自分が相続するので、Aさんに出て行ってもらうことになるかもしれない、とまで付け加えたのです。

Aさんは、すべてを諦めるしかないのでしょうか。また、里親が、愛情を注いだ里子に、きちんと財産を遺してあげるためには、一体どうすればよかったのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■里親と里子の関係だけでは相続は困難

ー里親と里子の関係では、法律上の相続権は発生しますか?

結論から申し上げますと、里親と里子の関係だけでは、法律上の相続権は発生しません。里親制度は児童福祉法に基づく公的里親やそれ以外の私的里親がありますが、いずれも子どもの養育を目的としたものです。里親と里子の間に法律上の親子関係は生まれません。

法律上の親子でなければ、民法で定められた「法定相続人」にはなれないため、残念ながら里親が亡くなっても、里子に財産を相続する権利は自動的には発生しないのです。

ー里親が里子に財産を確実に遺すためには、どのような方法がありますか?

里親が、愛情を注いできた里子にご自身の財産を確実に遺したいと考える場合、主に以下の方法が考えられます。

最も確実な方法は、里子と「養子縁組」をすることです。養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類がありますが、どちらの縁組をしても法律上の親子関係が生じます。これにより、里子は法律上の「子」となり、実子と同じ立場で法定相続人として財産を相続する権利を得ることができます。

遺言書を作成しその中で「(里子である)Aさんに、〇〇の財産を遺贈する」といった内容を明記しておく方法も有効です。遺言書があれば、法定相続人以外の人にも財産を遺すことが可能です。Aさんは相続人ではないため、遺言書上「相続させる」と記載しない点に注意が必要です。

あるいは、里親と里子との間で「死因贈与契約」を結ぶ方法もあります。

里親が生きている場合は、里子に財産を贈与する「生前贈与」も考えられます。ただし、贈与する財産の価額によっては贈与税が課される可能性があるため注意が必要です。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)