SNS上では銀行やコンビニエンスストアのATMを長時間にわたって占拠する人に対しての大喜利のようなやりとりがされています。例えば「おばさんATMハッキング説」「YouTubeでも見てる?」「Netflix鑑賞中?」などのコメントが投稿され、盛り上がっていました。たしかに実際に長時間ATMを占拠する人の後ろにできた列で待たされる身としては、「何をそんなにやっているの?」と気になってしまうものです。
ではこのようにATMを占拠する人たちは、実際には何をしているのでしょうか。元銀行員の橋本ひとみさんに、話を聞きました。
■長時間操作はただ”もたついている”だけじゃない
-ATMで長く操作している人は、単に不慣れなだけではないでしょうか?
もちろん、不慣れであることも一因でしょうが、生活上の事情が大きいと考えます。家計を複数の口座で管理している人は、給料を振り分けるだけで何度も操作が必要です。
子どもの学費や習い事代を専用口座に入金する、夫の口座に生活費を移す、そんな振込が重なると、あっという間に10分以上かかります。そのためATMには、並んでいる人がいるときは並びなおして操作するよう促すポップがついていることもあります。
また、ATMのタッチパネルは乾燥した指先だと反応しづらく、ご年配の方から『何度押しても進まない』と相談されることもありました。バッグの奥から通帳やメモを探すのにも時間がかかりますし、防犯意識の強い人ほど何度も画面を確認してから操作するので、結果的に長くなりやすいんです。
-ATMの長時間利用が、犯罪に巻き込まれているサインになることはあるのでしょうか?銀行員として、どんなケースを見てきましたか?
実際に、特殊詐欺を目の当たりにしました。ATMで10分以上電話をしながら慌てた様子の女性がおり、操作指示を受けられている様子だったので声をかけたんです。すると「急いでいる!」と激高されました。
これはおかしいということで、落ち着いて話を聞くと、やはり特殊詐欺の可能性が高いという判断になり、ご本人に了解を得た上で警察へ連絡しました。
犯罪に巻き込まれているサインとしては、
・通話で指示を受けている
・不必要に慌てている
といった行動です。これは私自身も現場で強く意識していたポイントになります。
-ATMで長時間操作している人を見かけると、ついイラッとしてしまうのですがそんなときどう行動するのが正しいのでしょうか。
直接声をかけるのはトラブルにつながる恐れがあります。犯罪に巻き込まれていたり、慌てている状況だと、こちらの言葉に強く反応してしまうことがあるからです。
そのため店舗のATMであれば、行員に知らせるのが安全です。また出張所や無人ATMなど行員がいない場合は、銀行の相談窓口などに連絡する方法もあります。
また、本当に操作に不慣れで困っている人もいます。その場合は、係の人に来てもらった方が早く解決し、結果的に順番もスムーズに回ってきますよね。必要に応じて人を呼ぶのが、利用者にとってもご自身にとっても最適な対応だと思います。
ATMを長時間利用している人は、別の用事をしているわけではありません。家計の事情や操作の不慣れ、さらには詐欺被害の可能性まで、その背景はさまざまです。待たされるとついイラッとしますが、優しい気持ちをもって、不自然に感じたら係の人を呼んで助けてあげる、そんな心の余裕が持てたらいいですね。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ)
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)