昨年5月、道路脇の草むらに1匹の茶トラの子猫が倒れていました。当時、生後推定6~8週間、体は汚れ、痩せ細ったその子猫は、起き上がる力もないほど衰弱していたといいます。のちに「ミック」と名付けられたその子は、生と死の瀬戸際にいたところを救われたのです。
■散歩中、草むらから子猫の鳴き声
飼い主さん夫婦は、ある日の夕方、海沿いを散歩していました。するとどこからともなく子猫の鳴き声がすることに気づいたといいます。
「声がするほうへ近づいてみると、道路から3メートル下の草むらで子猫が倒れて手足をバタバタさせていました」
これまで猫と暮らしたことはなかった飼い主さん夫婦。それでも小さな子猫が必死に鳴き、生きようとする姿に胸を打たれ、保護することを決めました。
「子猫のいる場所は、道路からかなり下った場所で、降りることはできても戻るときどうするか考えあぐねました。あたりを見回すと、偶然、壊れかけの椅子が捨てられていたんです。早速、子猫を保護して、椅子に足をかけて道路上に戻ることができました」
このとき、椅子がなければ、いったんその場を離れてロープやはしごを買いに行かなければならなかったでしょう。そのあいだに子猫がいなくなってしまう可能性もあったのです。「子猫を助けたい」という一心で行動に出た飼い主さん夫婦に、運が味方したようでした。
こうして救われたミックくん。保護後、元気を取り戻すため、ミックくんと飼い主さん夫婦、心をひとつにして回復に努める日々が始まりました。
■小さな命をつなぐためにーー緊張感に包まれた保護初日の夜
ミックくんは、激しく衰弱し、明日にでも息絶えてしまうのでは…という予断を許さない状態だったといいます。飼い主さん夫婦がミックくんを連れて帰宅したときは、すでに夜。土地柄、夜間に診察してくれる動物病院が見つからず、ひと晩、自宅でケアをするしかありませんでした。
「体を温め、部屋を暖かくし、トイレを促し…幸い意識はあったので、朝まで声をかけ続けました。『どうか頑張って』と祈るような気持ちでしたね。翌朝、動物病院が開くのを待ちました」
朝を迎え、ミックくんは病院で必要な治療を受けることができました。保護時はご飯を食べることもままならない状態でしたが、2日後から回復の傾向が見られるようになったといいます。
「ウェットフードを食べられるようになると、獣医さんも驚くほどの早さで回復していきました。猫と暮らしている友人や知人に相談したり、猫との暮らし方にまつわる本を買ったり、ネットで調べたりする日々ーー試行錯誤しながら育てたのを覚えています」
飼い主さん夫婦から手厚いケアを受け、惜しみない愛情を注がれたミックくんは、それに応えるようにすくすくと成長していきました。
■ミックくんとの出会いが夫婦にもたらした変化
初めての“猫育て”は大変なこともありましたが、飼い主さん夫婦はすぐにミックくんの愛らしさにメロメロになったといいます。
「当時、私たち夫婦はこの土地に移住したばかり。不慣れなことも多く、いろいろ不安を抱えていました。でも、ミックを迎えたあとは、笑うことが増え、その存在に癒やされるようにーーお世話をする楽しさも教えてもらったと思います」
さらに、飼い主さん夫婦にとっても、ミックくんとの出会いは大きな転機になったようです。
「私は幼いころから病弱だったのですが、ミックと暮らしはじめてから、以前より体調が良くなりました。夫は当時、家族を亡くしたばかり。悲しみを抱きながら過ごしていましたが、ミックのおかげで立ち直ることができたのです」
■人見知りで甘えん坊ーー音楽好きな男の子に
ミックくんは、生後推定1歳5カ月を迎えました。とても優しく、きれい好き。ちょっぴり“びっくり屋さん”の一面もあるそうです。
「子猫の時から人が苦手で、私たち以外の人には、今でも震えてしまうことがあります。家に人が来ると、棚の裏に隠れたり、クローゼットから出てきません」
慎重派のミックくんですが、飼い主さん夫婦のことを優しく励ます頼もしさも持ち合わせています。また、一緒に趣味を楽しむこともあるそうでーー
「私たちが落ち込んだときや、疲れているときは、膝の上に乗ってきて、一緒にお昼寝してくれます。音楽を聴くのも好きです。私たちは音楽が好きで、ふだんからいろいろな音楽を楽しんでいるのですが、ミックはそのなかでも、イギリスのロック・ギタリスト『ミック・ロンソン』のギター音を耳にしたときは、目をまん丸くして聞き入っていました。ミックの名前の由来にもなっています」
突然の出会いから約1年半。飼い主さん夫婦はYouTubeチャンネル「ミックという猫」を開設し、ミックくんとの出会いから現在の様子まで、その日々を大切に綴っています。移住先で運命的に出会ったミックくんへ、次のようなメッセージを寄せてくれました。
「ミック、我が家に来てくれて本当にありがとう。これからも仲良く、楽しく、暮らしていこうね」
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YouTubeチャンネル「ミックという猫」でミックとの日々を見ることができます。
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)