「事故に遭ったのか、下半身を引きずりながら民家の庭で耐えていた猫さん。どこからも助けてもらえなかったとのことで相談がありました」
そんな言葉とともに投稿された動画が、多くの人の胸を打っています。投稿したのは、名古屋を拠点に保護猫活動を続ける「ねころび」(@nekorobi_m)さん。助けを求めることもできず、3日間も動けなかった猫-のちに“ソル”と名付けられたその子の救出には、消防隊員の協力もありました。
■「このままでは命が危ない」現場に駆けつけたボランティアたち
10月1日、ねころびさんの元に届いた一通のSOS。内容はこうでした。
「9月30日の早朝、自宅に猫が迷い込みました。下半身が麻痺しており、前足で這って歩いています。警戒心が強く近づけません。猫アレルギーがあるため飼うことができません。助けてもらえますか?」
「すぐに現場へ行かないと、もう持たないと感じました」
現場に駆けつけたボランティアさんが見たのは、段ボール箱に頭だけ突っ込んでじっと動かない小さな茶白の猫。人の顔が見えると全力でうなり、威嚇を続けていました。
「大怪我を負っているのに、前足で必死に這いずって逃げようとしていて。恐怖と痛みの中で、懸命に生きようとしていた姿が忘れられません」
消防隊員にも連絡が入り、協力のもと無事に保護が完了。
「革手袋をしてかみつかれながらも、キャリーに入れてくれたんです。『うちにも保護猫がいるんですよ』と笑顔で話してくれた隊員さんの言葉に、胸が熱くなりました」
■「助けてもらえなかった」愛護センターの対応に疑問の声
実はこの猫、発見当初に動物愛護センターへも相談が寄せられていました。しかし、返ってきたのは「住宅の敷地内は対象外」「けがではないので対象外」という冷たい回答。
「野良猫か飼い猫かも分からない。それでも“見に行くことさえしない”のは、命を見捨てるのと同じだと思いました」
ねころびさんは、行政がまず一度保護し、医療につなげる仕組みの必要性を訴えます。
「殺処分になる可能性があるなら、ボランティアと連携して命をつなぐ努力をしてほしい。行政の“対象外”という一言が、現場の人間やボランティアをどれだけ追い詰めているかを知ってほしいです」
実際、今回の発見者の家庭には子どもがおり、「スポンジちゃんをよろしくお願いします」と手書きのメッセージと寄付金が届けられたといいます。
「その中には子どもさんのお小遣いも入っていたそうです。子どもの純粋な思いを裏切るような仕組みであってはいけません」
■ 骨盤骨折のソル
「怖くて仕方ない子だけど、今は食べてくれています」
病院での診断は骨盤骨折。下半身は麻痺し、排尿や排便もままならない状態でした。
「貧血もあり、最初はご飯も食べられませんでしたが、少しずつ食欲が戻ってきています。食事療法と投薬で様子を見ながら、圧迫排尿も続けています」
ただ、威嚇が強いため、ケアは慎重に行わなければなりません。
「人が怖くて仕方ないんだと思います。洗濯ネットやタオルで包んでケアしていますが、1日も早く“ここは安全なんだ”と分かってもらえたら」
顔つきは少しずつ穏やかになってきているそうです。
■「医療費や食費など負担がのしかかる」それでも猫を助ける理由
ねころびさんは10年以上にわたり、名古屋で保護猫活動を続けています。だがその裏には、膨大な時間と費用、そして社会的な誤解がつきまといます。
「『助成金で儲けている』なんて言われたこともありますが、実際はすべて自費か寄付。収入もなく、仕事の合間や夜遅くまでボランティアが動いています」
行政が断った猫を引き取るたびに、医療費や食費、通院の負担がのしかかる。それでも続ける理由を尋ねると、彼女は静かにこう答えました。
「“助けてもらえなかった命”を、見過ごせないんです。どんな猫にも、生きるチャンスは平等にあるはずだから」
■「命を終わらせる場所ではなく、つなぐ場所に」
ソルちゃんは現在もシェルターで療養を続けています。走ることはできなくても、穏やかに過ごせる未来を目指して。
ねころびさんは最後にこう語りました。
「人も動物も命の重さは同じです。見捨てないでください。もし迷ったら、まずは“自分にできること”を考えてみてください。SNSで助けを求めるだけでもいい。でも、誰かに丸投げせず、必ず“自分の手で一歩”を動かしてほしいです」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)