保護翌々日、飼い主さんの家に迎えられたむぎちゃん(画像提供:むぎと人間さん)
保護翌々日、飼い主さんの家に迎えられたむぎちゃん(画像提供:むぎと人間さん)

茶トラ猫の「むぎ」ちゃん(2歳・男の子)は、今から2年前、Xユーザー・むぎと人間さん(@mugitokoromo)と出会いました。雨の夜に用水路で流されそうになっていたむぎちゃんを保護したのです。もし出会いが少しでも遅ければ、命を落としていた可能性もある危機的な状況でした。

■雨の用水路で必死に鳴いていた小さな体

「2023年6月9日、私の父が保護しました。夜、仕事から帰宅した父が車から降りると、子猫の鳴き声が聞こえたそうです。田舎で街灯がなく、懐中電灯を持って探しに行ったところ、自宅から100メートルほど離れた田んぼ脇の用水路にむぎを見つけました」

その日は1日中雨が降り続き、用水路には水が流れていました。

「むぎは水に身体が浸かっていて、生えている草に小さな手でしがみつきながら、大きな声で鳴き叫び、足をバタバタさせて流されまいと必死に耐えていたそうです」

父はすぐに保護して家に連れ帰りましたが、実家にはすでに臆病な2匹の猫が暮らしており、3匹目を迎えるのは難しい状況でした。

「母から『飼わないか』と連絡があったんです。その時ちょうど私は結婚してペット可の物件に引っ越したばかりでした。最初の2年はペット不可の物件に住んでいましたが、実家で猫と暮らしてきたのでまた一緒に暮らしたいと考え、次はペット可にしたんです。本当は新婚旅行の後に猫を迎えるつもりでしたが、思いがけない出会いに、その日のうちに引き取る決心をしました」

翌日にはケージやトイレなど必要なものをそろえ、さらにその翌朝、両親がむぎちゃんを連れてやってきました。

「むぎは当時、生後推定2カ月でした。むぎを迎えたことで新婚旅行は行けなくなりましたが、それ以上に日々の幸せをくれていて、本当に出会えてよかったと思っています」

■初日から甘えて眠った日 家族に深まった絆

「うちに来た初日から猫じゃらしで遊んだり、家を探検したりと好奇心旺盛でした。初日に私のお腹に乗ってそのまま眠ってしまい、命のあたたかさと尊さを感じて涙が止まらず、絶対に幸せにすると誓いました」

むぎちゃんの存在は、過去の記憶も呼び起こしました。

「むぎが来る3年ほど前に、初めての愛猫を病気で亡くしたんです。その子のふわふわした感触や楽しかったこと、苦しかったことを思い出しました」

お迎え時、むぎちゃんは健康とは言えない状態で、元気を取り戻してもらうためにさまざまなケアが必要でした。

「結膜炎で目の周りが赤く、寄生虫もいました。結膜炎はすぐ治りましたが、回虫が厄介で…。駆虫薬を飲ませると便に混じって大量の紐状の虫が出て、さらに卵がなくなるまで時間がかかりました」

さらに、乗り越えるべきことはほかにもありました。

「2週間ほど夜鳴きが酷く、私は2時間しか眠れないまま出勤してフラフラでした。夫が在宅勤務だったのでお留守番は少なかったのですが、本当に大変でした」

それでも、むぎちゃんがもたらした嬉しい変化もありました。

「むぎと暮らし始めて、夫との会話が圧倒的に増えました。私たちはもともと静かに暮らすタイプでしたが、むぎを見て笑ったり、写真や動画を共有したりと、家の空気が明るくなりました」

■大きく成長した今、命に向き合う覚悟

むぎちゃんは、飼い主さん夫婦の手厚いケアを受けてすくすくと成長し、立派な成猫へと育ちました。

「子猫のときは小さいながら腕が太く、父が『この子は大きくなるぞ』と言っていました。結果、その通りにがっしりした大柄な子に育ちました」

飼い主さん夫婦は、むぎちゃんとの日々を何よりも大切にしています。

「危ないことはさせず、自由に楽しく長生きしてほしいです」

そしてこれから、家族が増える中でも変わらぬ誓いを立てています。

「私は今妊娠していて、もうすぐ家族が増える予定です。でもむぎがおろそかにならないように、忙しくても必ず遊んであげたいです。むぎが歳をとってどんな姿になっても、最後まで向き合い、愛し続けると誓っています」

その強い思いの背景には、かつての経験があります。

「昔、保護して一緒に暮らした猫が白血病のキャリアで発症し、介護の中であまりに疲弊して逃げたくなったことがあったんです。でも亡くなってほしくなくて、心身ともに本当に苦しかったです。葛藤や悲しみは避けられないかもしれませんが、今度はしっかり命に向き合い、最後までむぎが幸せに生きられるよう力を尽くしたいです」

用水路で必死に生き延びていたむぎちゃんは、今や家族の中心に。新しい命を迎えるこれからも、変わらぬ愛情の中で共に歩んでいきます。

(まいどなニュース特約・梨木 香奈)