小さな子猫が、ひとりでゴミ箱の陰に身を潜めていた--。
人がゴミを捨てるのを待ち、いなくなった瞬間に小さな穴へ入り込む。追われれば逃げ、飢えと恐怖の中で生き延びていた子が「せいこ」ちゃんです。
投稿したのは、愛知県豊田市の動物愛護団体「豊田地域猫の会」に所属するボランティア・えみさん。Instagramに投稿された動画は大きな反響を呼び、コメント欄には「よく頑張ったね」「涙が出ました」「救ってくれてありがとう」の声が寄せられています。
今回、えみさんに詳しく話を聞きました。
■子猫の鳴き声を流して探した7日間
えみさんが「せいこ」ちゃんを初めて見つけたのは、隣の市。建設会社の資材置き場でした。
「毎日、隣の市まで通い、子猫の鳴き声をYouTubeで流しながら歩きました。すると、ある日“私はここよ!”と言わんばかりに鳴いてくれて…でもすぐに隠れてしまいました。おびえている様子でした」
現場で作業する職人さんが「ゴミを漁る子猫がいる」と教えてくれたことがきっかけでした。近隣に聞き込みをしても「猫にご飯をあげないで」「あげたら叱られる」と繰り返され、地域として“餌やり禁止”が徹底されている場所だったといいます。
市役所に問い合わせても返ってきたのは、「猫にご飯をあげないでください。あげている人がいたら指導に行きます」という一点張りでした。
■母猫と兄弟は別の餌場へ…
母猫と兄弟たちは少し離れた餌場にいたものの、せいこちゃんはそこへ行くことがありませんでした。
「母猫と兄弟はたまに来ていましたが、その期間も短くなってきていました。餌場に行かない理由はわかりません。でも、このままだと“ひとりぼっちのまま”、近隣の人に追われ続け、飢えてしまう…そう感じました」
さらに、聞き込みをした際にはこんな言葉も。
「ゴミを漁るどうしようもない猫だと言われたんです」
守る人が誰もいない場所。「ご飯をあげると叱られる」地域環境。母猫たちも次第に来なくなる気配…。えみさんは「ここでは生きられない」と確信したといいます。
■保護まで7日間、そして“安堵の涙”
聞き込みを開始してから約7日後、えみさんはついに保護を成功させました。
「キャリーケースの中にチュールを入れて、扉に紐を付けました。せいこが入った瞬間に紐を引いて閉める方法です」
保護できた瞬間は、今でも忘れられないといいます。
「自宅に着いた瞬間、そして部屋に入れた瞬間、安堵して泣けました。飢えて追われ続けた子です。必ず幸せにすると誓いました」
■頭だけ隠して震える子
保護初日のせいこちゃんは、逃げようと必死でした。
「隙あらば逃げたい、頭だけ隠して体を丸める姿でした。今までどれだけ邪険にされてきたのか…痛いほど伝わりました」
その姿は動画でも反響を呼び、「泣いてしまった」「よく生き延びたね」という声が寄せられています。
■今は“猫部屋”で5匹と一緒に暮らす最年少
現在、せいこちゃんは“猫部屋”と呼ばれるベランダ付きの2部屋で暮らしています。
「5匹で暮らしていて、せいこが最年少です。どの子にも甘えに行って、みんなに守られて暮らしています」
抱っこはまだ苦手ですが、ゆっくり心を開いています。
「逃げたり隠れたりはなくなりました。ヨシヨシやお尻ポンポンは好きみたいですが、抱き上げるのは…まだダメらしいです(笑)」
推定年齢は現在2歳前後。ようやく「甘える」ことを知った年頃です。
■「餌をやるな」という指導
取材を通して、えみさんが強く感じたことは、行政・地域の“猫への理解不足”でした。
「市によって避妊去勢手術の助成額が違い、地域猫活動への理解がありません。餌をやるなと指導する時代はもう終わりです」
実際、えみさんの住む豊田市は避妊去勢手術が“全額補助”。しかし、隣の市では活動者が自腹で負担しなければならず、理解も進んでいません。
「行政が地域猫活動を進んで行うことで、不幸な猫は減ります。ボランティアに頼りきりにする時代ではありません」
■「あの時、保護を選んでよかった」
保護から2年--。せいこちゃんは今、仲間たちと穏やかに暮らし、甘え、守られています。
「あの時、保護を選んでよかった。血はつながっていなくても、家族として穏やかに過ごせています」
1匹の子猫の命をつなぐまでにかかる労力は大きい。それでも、えみさんの行動は、多くの読者に「地域猫問題」への関心を呼び起こしています。
飢えと恐怖の中でひとり生き延びた子猫が、いま温かい家庭で幸せに暮らしている--。
「せいこ」ちゃんの物語は、私たちに“地域全体で猫を守る姿勢”の重要性を静かに伝えてくれます。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)
























