介護が必要な高齢者の生活 ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)
介護が必要な高齢者の生活 ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)

兵庫県神戸市在住の42歳、会社員の佐藤一郎(仮名)さん。30代でパート勤務の妻と小学4年生の娘、保育園に通う息子、そして70代の母の5人家族です。

母は5年前に脳梗塞を発症し、右半身に麻痺が残って要介護2の認定を受けました。平日はデイサービスに週3回通っていますが、日常生活ではトイレや食事の介助が必要です。一郎さんは仕事中、施設からの連絡や帰宅後の介助に追われ、災害が起こった場合の避難方法が頭をよぎることも少なくありません。

災害は誰にでも起こり得ます。特に高齢者や障がい者がいる家庭では、避難計画や支援制度の理解が不可欠です。阪神・淡路大震災から31年、災害時要配慮者支援の仕組みは整備されてきました。高齢者や障がい者を抱える家庭が、今すぐ準備できる具体策を整理してみましょう。

■災害時、高齢者・障がい者が直面する課題

▼避難の遅れや支援不足が命に関わる

災害時において、避難の遅れは命に直結します。内閣府の調査では、平成30(2018)年7月豪雨において、死亡者の約70%を60代以上の方が占めたと発表しています。身体的な制約や認知症、移動困難は個人の努力不足ではなく、社会制度や地域の支援体制の未整備が背景にあります。

▼情報共有の不足

多くの自治体では、災害時に支援が必要な人を「避難行動要支援者」として名簿に登録する仕組みがあります。内閣府・消防庁の調査によると、令和7年(2025年)4月1日現在、作成済みの自治体の多くで、災害時支援関係者に名簿情報を平常時から提供できる体制が整っています。

■災害時の支援体制と制度の整備

▼避難行動要支援者名簿制度

自治体が作成する名簿に登録すると、災害発生時に避難支援が必要な人となり、控除のシステムとして地域の担当者やボランティアと情報共有されます。ただし、災害の状況によっては支援者自身も被災する可能性があるため、名簿への登録が支援を確実に保証するものではありません。日頃から自助の取り組みと地域とのつながりを大切にすることが重要です。

▼個別避難計画

個別避難計画は、障がいや介護の状態に応じた具体的な避難方法を整理する書類です。例として、車椅子使用者の場合のルート、移動手段、介助者の役割を明確化します。市町村が主体となり、ケアマネジャーや相談支援専門員などの福祉専門職、地域包括支援センター、本人・家族、地域住民などと連携して作成し、費用は原則無料です。

▼福祉避難所の活用

自治体によっては、一般の避難所とは別に、医療や介助が可能な福祉避難所を指定しています。福祉避難所では、食事の配慮や介助器具の利用などが可能です。福祉避難所には、事前に受入対象者を調整して直接避難できる「指定福祉避難所」と、一般避難所からの二次避難先となる「協定福祉避難所」があります。運用方法は自治体によって異なるため、お住まいの市町村の防災担当課や福祉担当課に、利用方法や事前手続きの有無を確認しておくことが重要です。

■災害に備える3つの具体策

▼1.事前登録と名簿の活用

佐藤さんの母のように要介護2の高齢者や障がい者は、自治体の「避難行動要支援者名簿」に登録しましょう。登録手続きは市町村の防災担当課や福祉担当課で行えます。登録後は、避難支援が必要な場合に自治体から支援員やボランティアが連絡・支援してくれます。

▼2.個別避難計画の作成

移動手段、介助者、必要物品(車椅子、杖、薬など)を整理した計画を作ります。市町村が主体となり、ケアマネジャーや相談支援専門員などの福祉専門職、地域包括支援センター、本人・家族、地域住民などと連携して作成します。また、本人や家族が中心となって作成する場合もあります。計画の作成費用は原則無料ですが、医療情報を取得するための費用と自助のための備蓄品や介護用品の購入費用は自己負担となります。作成後は、実際にルートを歩いて確認する訓練を行うことで、災害時の混乱を減らせます。

▼3.福祉避難所の確認と利用手続き

自治体が指定する福祉避難所の場所や利用条件を確認しましょう。佐藤さんの母の場合、事前に登録することで食事の形態や介助方法を把握してもらえます。

   ◇   ◇  

佐藤さんの母は、避難行動要支援者名簿に登録し、個別避難計画を作成、福祉避難所の利用方法を家族と共有しました。いざという時も、どのように避難すれば安全かが明確になり、家族の不安は大きく減少しました。

災害への備えは、急に大きな山を登るようなものではなく、日々の生活の中で少しずつ整えていくステップです。準備を始めるのに遅すぎることはありません。「今日の一歩」が、未来の安全を支える力になります。

まずは自治体の福祉課や地域包括支援センター、社会福祉士に相談し、家庭に合った避難準備を始めましょう。身近な備えが、家族の命と安心を守る大きな力となります。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)