野球の世界一決定戦として知られる祭典・WBCは、多くのメディアで放送されて、世界中の野球ファンを熱狂させています。これ以外にも、野球の世界一を決定する大会が、もうひとつ存在しています。それが、耳が聞こえない人・聞こえにくい人のみで行われる『ろう野球』の世界大会・WDBC(世界ろう野球大会)です。
2024年2月から3月にかけて台湾で開催された第1回WDBCでは、日本代表チームは予選リーグから決勝まですべて勝利し、見事初代王者に輝きました。
では、そもそも『ろう野球』とは、どのようなものなのでしょうか。その歴史や日本代表チームが世界一をつかみ取るまでの軌跡、そして2026年に開催される日本大会に向けた熱い想いを、一般社団法人日本ろう野球協会理事の石村真由美さんに話を聞きました。
■100年以上の歴史を持つ『ろう野球』
--ろう野球とは、どのようなスポーツなのでしょうか?
『ろう野球』とは、音が聞き取れない・聞き取りにくい『ろう者』のみで行われる野球ですが、一般的な硬式野球の公認野球規則をそのまま適用して行われます。最大の特徴は、公平性を保つため、選手全員が補聴器や人工内耳を外して完全に音のない状態でプレーを競いあう点です。
日本における『ろう野球』の歴史は古く、1918(大正7)年の東京野球大会にまで遡ります。現在にいたるまで軟式野球を中心に発展を遂げており、数ある競技のなかでも特に歴史を長く刻んできました。
世界との交流を目指し、2020年に立ち上げられたのが日本ろう野球協会です。当初は同年、韓国でのWDBC開催が予定されていましたが、コロナ禍により幾度もの延期を余儀なくされました。そして2024年、台湾の尽力によりついに念願の第1回大会が実現します。
■コロナ禍を乗り越え、絆で勝ち取った初代王者
--日本代表チームが初代王者となっていますが、ろう野球ならではの苦労するポイントなどはありましたか?
もちろん平坦な道のりではありませんでした。根本的な部分であるコミュニケーションでの苦労はありましたね。インテグレーション(統合教育)で学んできた選手も多く、口話や手話など、コミュニケーションの手法は選手によってまちまちでした。
それでも合宿を重ねるごとにお互いが歩み寄り、手話や指差しなどの視覚的情報を頼りに、グラウンド上でお互いをフォローしあう連携を築き上げていったのです。
■『ろう野球』普及に立ちはだかる壁
--WDBCの優勝で、ろう野球を取り巻く環境にどのような変化がありましたか?
WDBC優勝によって、ろう野球の認知は広まりました。とはいえ、ろう者の国際スポーツ大会・デフリンピックには野球種目が採用されておらず、世界へ向けた道筋にもギャップが生じているのが現状です。
それだけではなく、新たにろう野球に取り組みたいと思う人たちが増えたことで、いくつか問題点が見えてきました。まず挙げられるのが、競技を続けるための環境や機会の不足です。ろう学校には硬式野球部がなく、障害を理由に危険だと判断されてしまうなど、プレーを継続できる環境が十分に整っていません。
また、次世代の育成においても、子どもたちが野球を始める際に、指導やコミュニケーション方法が未整備なケースが多く見受けられます。
■2026年11月のWDBC日本大会に向けての決意
--日本代表チームや日本ろう野球協会として、今後の目標などはありますか?
いよいよ2026年11月には、日本で第2回WDBCが開催されます。目標として大会2連覇を掲げると同時に、世界ろう野球大会や、ろう野球そのものの存在をより多くの人に知ってもらうことが目標です。
この大会が、世界中の聞こえない人たちにとっての希望や目標となり、子どもたちが「自分も頑張ってみたい」と思えるきっかけになること。そして、共生社会を考えるうえで意味のある大会にしていきます。
また、WDBC連覇の夢を叶えるために、日本ろう野球協会ではクラウドファンディングを行っています。大会を成功させるためには、1人でも多くの方の応援や支援が大きな力となります。また先日、他国の支援のために目標金額を引き上げました。いただいたご支援は他国の参加支援にもつながりますので、ぜひご協力をお願いいたします。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)























