「地区の人々が自ら立ち上がろうとした矢先の計画は、復興を遅らせ、希望を断ち切る以外の何ものでもない」
十二日午後、神戸市東灘区の寺院に住民約百人が集まった。森南町・本山中町まちづくり協議会会長の加賀幸夫さん(61)はゆっくりと意見書を読み上げた。
芦屋市と隣接する森南地区は古くからの住宅街で、約千六百世帯の九割が全半壊した。寺院の周辺は軒並み倒壊し、ところどころに亡くなった人を悼む花が供えられている。
市の土地区画整理事業の計画が分かったのは二月二十二日。地区北側に設置予定のJR新駅を中心に、十七メートルの幹線道路、駅前広場、公園拡張などを計画する。急きょ発足した同協議会は六日後、住民の三分の二の二千八十人の反対署名を市に提出。署名は今、周辺を含め三万近くになった。
区画整理事業は、地権者が土地を少しずつ提供して道路や公園用地を確保し、街づくりを行う。きょう十四日に計画案を市都市計画審議会に諮り、十六日の県審議会で決定を目指す。
大部分の住民は地域を離れて避難する。「家族を亡くした上、土地を取られたくはない」「緊急車の通行は十分可能。広い道は必要ない」など、説明会もないままの計画決定に反発は強く、協議会は「なぜ、そんなに急ぐのか」と、独自の街づくり案も用意する。
◆
森南地区をはじめ神戸市内六地区は建築基準法八四条による建築制限区域に指定され、二階建て以下の木造や鉄骨造りなど以外は建てられない。宝塚市三カ所と、西宮、芦屋市各二カ所、北淡町一カ所も制限区域。区画整理は三市一町の十カ所二百二十一ヘクタールに及び、戦災復興以来の大規模な事業が同時に進む。
被災市街地での八四条適用は、この三十年余りで山形県酒田市の大火(一九七六年)しかない。建設省は「私権制限は自治体によほどの覚悟がなければできない」とする。
神戸市は、制限が切れる十七日までに都市計画決定、今後、道路や公園など具体的な事業内容を詰める方針だ。「二階建てなど木造は建築制限中でも可能」といっても、事業内容によって、移転を迫られる可能性もある。
神戸大教官有志で組織する震災研究会は「区画整理事業を今すぐ決める必要はない」と主張、八四条の制限が切れても新たに制定した被災市街地復興特別措置法で最長二年間の建築制限ができ「住民の意見を聴いた上で決定することは可能」とする。
神戸市都市計画局の近藤義和計画部長はこう話す。「住民と話し合いをしていない、決定までの時間が短いとの意見はその通りだ。しかし、延長して意見がまとまるだろうか。絶対にないと断言できる。復興は一日でも急ぐ」
◆
集会のあった十二日、森南地区の高橋克文さん(43)は、自宅用地に建てた小さな仮設住宅に移った。倉庫用のプレハブには、四人の子どもたちの学習机などがすき間なく並んだ。
「いつになったら、ちゃんとした家に住めるのか。市の窓口でもはっきりした答えは返ってこない。区画整理がどういうものかさえ、みんなは知らないのに」
1995/3/14