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(11)借家はどうなる 家主、借家人ともに苦悩
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 一、市営・県営住宅の大量建設を

 一、高齢者・低所得者に、建て替え、修理後の借家家賃補助を

 尼崎市内で十二日に開かれた「阪神大震災尼崎被災借地・借家人の会」主催の相談会。八項目の緊急要求が盛り込まれたB4の用紙を手に、代表世話人の田中祥晃さん(六〇)が、署名を呼び掛けた。

 会には、長年暮らした住まいから立ち退きを求められた約三百人が参加。弁護士らの話を一言も聞き漏らすまいと耳を澄ませた。

 会員も発足から一カ月余りで四百人を超えている。消費者金融問題など過去多くの市民運動に携わった田中さんも、これほどの盛り上がりは記憶にないという。

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 戦前から阪神工業地帯の中核として発展、高度成長を支えてきた尼崎市。九州などから出てきた労働者を迎え入れるため、大量の民間住宅が建設された。戦後五十年の今、南部を中心に残った木造老朽の賃貸住宅は、震災で大きなダメージを受けた。

 総務庁の住宅調査では、尼崎の民間借家は四四%と、神戸の三〇%、西宮三二%、芦屋二七%と比べてもず抜けて高い。文化住宅に代表される木造賃貸は四割を占め、半数は築二十年を超す。家賃は一万から四万円。年金生活の高齢者や低所得者層が多い。

 宮田鶴子さん(七〇)が夫と二人暮らす尼崎競艇場近くの文化住宅は、地震で二階への非常階段が使えない。幹線道を走るトラックの振動で日増しに壁の崩れがひどくなる。「基礎がだめ」と市は全壊と判定した。

 昨年、家主から補償なしで立ち退きを求められた。地震後、敷金と引っ越し料を払うからと言われたが、残る三世帯とともに首を縦に振らなかった。

 「ここを出てもどこにも住むところがあらへん」。安い文化住宅はどこも壊れ、物件は残っていない。夫は震災後、ぜん息が悪化、半月入院しやっと退院した。「年金生活ではとてもよそはむり。余震が怖いけど、動くことができひん」

 立ち退きを求めて家主は調停を申し立て、決着は裁判所に持ち込まれた。

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 二月六日から適用された罹災都市借地借家臨時処理法は、民法より借りる側の保護色が強い。建物が「滅失」した場合、通常は借家権がなくなるが、借家人に、土地賃借権の優先取得や建て替え後のマンションへ優先入居できる「優先賃借権」を認めている。

 だが、この法律も万能ではない。敷金を返してもらった場合、建て替え後の借家へ優先入居できるのかどうか-。弁護士間でも「権利は残るから、返してもらうのが当然だ」「いや慎重にした方が良い」と見解が分かれる。判例もなく決定的な解釈は法務省も出せていない。

 家主も苦しい。同法では、借家人が建物を修繕した費用を家主に請求できる。が、家賃収入だけで細々と生計を立てる家主には、とてもそんな費用は出せない。

 この問題に詳しい神戸弁護士会の上原邦彦弁護士は「三十万人が家を失った。借家権は単なる権利ではない。憲法上の生存権、基本的人権」としたうえでこう話す。「単純に法律を当てはめることは、零細の家主を苦しめることになる。家主も借家人も被害者だ」地震は、経済大国日本が積み残してきた部分を直撃した。

1995/3/17
 

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