「何人の生徒が来るのか分からないので、教師の数も決められない。臨時教諭で補えばいいというものでもない」。兵庫県内一のマンモス校、加古川市立平岡中学校の藤原操校長は困惑気味だった。
すぐ目の前のJR東加古川駅東側には国鉄清算事業団の土地一〇・五ヘクタールが広がる。ダンプカーやクレーン車が忙しく動き、プレハブの仮設住宅建設が急ピッチで進む。三月下旬には千戸が完成。神戸市から被災市民が移ってくる。突然、一つの街が生まれるのと変わりはない。
同校の生徒は千百九十七人。新興住宅地だが、一挙に千世帯の転入は例がない。「高齢者世帯が多いとしても、子どもは三百人以上はいるだろう」と藤原校長。仮設入居は四月以降になる見通しで、教員数と生徒数の調整ができないまま新学期が始まる可能性が高い。
◆
神戸、西宮、芦屋、宝塚市などから県内各地へ、全国へと移っていく被災市民。子どもの教育ほか、上下水道、ごみ収集、福祉など自治体にかかわる課題は多い。住民票を移せば、移転先の「市民」だが、元の住所地に残せばどうなるのか。
二月上旬、加古川市は庁内で申し合わせをした。「住民票を移さなくても、市民に準じた対応を取る」。保育園の一時入園、ごみ収集や老人ホームのショートステイなど、通常なら市民でないと受けられないサービスも弾力的措置で行うとし、同市企画部は納税との兼ね合いを説明した。
「今、被災者にかかっている市民税、固定資産税は昨年の税金だから、市として問題はない。これからのことは、住民登録外登録も含め、個々に精査し、神戸市などと話し合う」
三田市でも四月上旬、宝塚市から二百四十四世帯が仮設住宅に入居する。
三田市は「入居者は基本的に宝塚市民。水道料金は徴収するが、手続き料は免除する。住民票がなくても学校への入学など、問題がないようにしたい」とし、宝塚市は「仮設住宅の維持管理やごみの問題などで、三田にお願いしている。自治体間の負担の問題はこれからだ」と話す。
◆
仮設住宅の入居期限は、国通達に基づく県の規則で完成から二年以内だが、市町によって考え方は違っている。
神戸市は原則六カ月で、六カ月を限度に更新可能。西宮、芦屋、宝塚市は一年以内、尼崎、伊丹市、北淡町は二年以内。神戸市は「被災した人たちが一日も早く自立し住宅を確保してほしい」とし「一年間というのは努力目標」と説明する。
長崎の雲仙・普賢岳の場合、今も約百世帯が仮設住宅で暮らす。二年の期限を大きく超え、もう四年近くになる。
二月末、JR東加古川駅に近い平岡町連合町内会副会長、山根久由さん(70)は、平岡北小学校に集まった町内会や婦人会などの代表に気持ち良く受け入れる準備をしてほしいと頼んだ。
「せっかく来るのだから、二年でも三年でも住みたいとの気持ちになるように迎えたい。自立のためのバックアップをしたい」。山根さんは、暇さえあれば仮設建設地の周辺を見回り、通学時の交通安全策は、ラッシュ時の対策は、と考えている。
1995/3/12