「これで再建できるんですね」
芦屋市のJR北側に広がる住宅地にあるマンション「芦屋ハイツ翠ケ丘」。震災で全壊したが、十八日朝、管理組合理事長の深見和男さん(六七)のところへ入居者から弾んだ電話が次々にかかってきた。
この日、朝刊各紙は、被災したマンションの建て替え促進のため、建設省が容積率緩和を決めたことを報じた。しかし、「これでは救われない」と深見さんは首を振った。
一九七一年に建設された同マンションは八階建て、百十二戸。敷地面積に対する延べ床面積の割合を示す容積率は約四〇〇%になる。建設二年後の七三年、建築基準法改正で、用途地域別に容積率の制限が行われた。同マンション一帯は二〇〇%。建て替えれば、高さの半減を迫られる。
容積率は、敷地内に公園などの公共的な空き地を一定以上確保する総合設計制度で制限が緩和されるケースがある。建設省は今回、同制度の適用範囲を広げ、空き地の割合を下げたり、容積率の上乗せ分をアップするとした。
「現行制度の柔軟運用だけでは救われるケースはわずかだ。これで被災マンションの救済策が終われば、大変なことになる」と深見さんは危機感を募らせる。
同マンションは、容積率オーバーの割合が多すぎるため、入居者が元通りの居住面積を確保することができない。
深見さんは、芦屋市内の他の八棟のマンションの住民らと、現状の容積率維持を求める請願を市議会に提出している。十六日の建設常任委員会では全委員が賛成。二十七日の本会議でも採択される可能性は高いが、再建できる見通しは不透明なままだ。
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被災地の神戸・阪神間は六〇年代後半からマンション建設が本格化した。容積率の規制実施を前に駆け込み申請したケースも多く、建築後二十年以上のマンションの多くは容積率を超しているという。
神戸市灘区内のマンション管理会社によると、市内で管理するマンションで、震災による建て替えが必要な八棟のうち、四棟が容積率を超していた。同社社長は「全壊したマンションの半分程度の二百棟前後は、容積率が建て替えの壁になるのではないか」と推定する。
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「マンションの建て替えには、内と外、双方に問題がある」
約五十人の住民を前に、高田昇・立命館大教授は強調した。「入居者の合意と、容積率制限を超えている場合の行政との交渉。障害は、この二つです」
神戸市東灘区のマンション「甲南コーポラス」の管理組合が十二日、大阪市内で学習会を開いた。震災で大きなダメージを受けた同マンションの住民は、続いての話し合いで、建て替えの方針を固めた。被災地のマンション再建問題をめぐって管理組合内の協議が難航する中で、同マンションの方針は先駆的なケースとなり、「内の問題」は解決した。
しかし、同マンションも容積率制限の枠を約六〇%分超える。今後は「外の問題」が残る。「制度の運用で従来通りの床面積を確保できる可能性はある」との高田教授の言葉に、住民らは希望を託している。
1995/3/26